食の十人十色! そして、唸れ!

ちさここはる

至福100% 愛で揉めるのは愛がため

「どん兵衛のきつねうどんで、決まりだ」


「いいや! まるちゃんの赤いきつねだ!」


 ここはネット販売会社ワールドルーツ。略して《ワルツ》の倉庫内だ。俺は恵比寿たくま。入社2年目のまだまだひよっこ。この会社はものすごく変わっていて、社長は異世界人。そして、倉庫は異世界と繋がっている。世間には企業秘密、従業員の口外なんか勿論のこと御法度だ。仕事中。死と背中合わせで危ない中、

「まるのとこのきつねうどんは甘いんだよ」

「どん兵衛はあっさりし過ぎなんだよ!」

 群青竜子グンジョウリョウコさんと群青翡翠さんが論争を始めた。俺は狼狽えるしかない。

 倉庫探索は6人構成で、後の3人は蛇苺紅玉ヘビイチゴルビーさんと馬場翁さんと竜之助リョウノスケさんだ。竜之助さんは翡翠さんと竜子さんのお父さんだ。

「竜之助さん〜〜2人をとめ……」と助けを求めたというのにだ。

「僕と母さんは緑のたぬき派だ」

 余計な論争の火種を撒いてくれた。

 俺は紅玉さんを見た。視線がかち合う。

「私は袋麺派だからカップ麺は食べないねぇ」

 期待した言葉は裏切られ、まさかの論外だった。

「ほら。袋麺はさ、具を好きなように乗せられるけど、カップ麺はそうもいかないっじゃっなぁあい? 息子の翡翠ミドリ君は、確か…赤いきつね派で、翡翠お兄さんと一緒だっねぇw」とほくそんだ。


 まともな応えがない! と頭を抱えたときだ。


「おれは赤いきつねと緑のたぬき。どっちも好きだよ」


 思いもしない伏兵が来た!


「まるちゃんてすごいよ。地域によって味が違うんだから。企業努力? 観察眼がっぱないよ。そりゃあ売れるし、愛されるよね。胃袋を掴まれちゃったら、もう買うしかないじゃんか。でしょう? 新商品とかも買っちゃうじゃない? もうまるちゃんの勝ちさ。白旗だよ」


 翁さんが饒舌に語る。


「売るためには当然じゃないか」

「どっちって聞かれたらどっち推しよ!」


 走っていた足も止められ翁さんの前で2人が見下ろす。翁さんも引き笑いをする。俺はドン引きだ。

 

「そう、……っすね」


 目を宙にして目を閉じて、翁さんは腕を組んだ。詰め寄る2人を他所に、

「おじさん。まだ時間は大丈夫でしょう?」

 このチームを引き連れる隊長リーダーは竜之助さんだ。

「ちょっと静かにしてくれ」と携帯で撮影をし始める竜之助さんに、

「さて。恵比寿君、行こうじゃないか」

 少しムッとする表情の紅玉さんが俺に声をかけ手招いた。

「え。あの3人は?」

 俺も思わず聞き返してしまう。

「置いていったって来るでしょう。仕事一筋の馬鹿一家だし。放って行っても平気さ」

「ですね」と俺も頷いた。


 たたたーー……走りながら、俺ははたと思った。そういえば何を取りに倉庫に来たんだっけ?


 「それで。今日は何を取りに行くんでしたっけ?」


 今更な質問に紅玉さんから、大きな溜息を吐いた。


「焼きそば弁当の北海道限定。1箱」

「俺も北海道限定の焼きそば弁当、食べたいなー〜〜」

「と」

「と? って、……まさか」

 俺の言葉に紅玉さんがニヤリと嗤う。


「赤いきつねと緑のたぬきを2箱ずつだ」


 思わず俺は後ろを振り返った。あの3人が来てくれないと困る事態。3箱を素手で抱え持つなんて真似、俺には無理だ。台車があればいいのに。


「それで。恵比寿君は何派?」


 スキップして紅玉さんが俺に聞く。楽しそうに声を弾ませる様子に意味がわからないが、

「俺、ですか?」

 聞かれるとは思った。

「うん。君の世代はカップ麺大好きなんでしょう?」

 確かに大好きだ。カップ麺。  


「俺は翁さんと同じ」

「両方好きなのね」

「はい。俺はたぬきときつねの両方一緒に食べる派です!」


 紅玉さんは信じられないような顔で俺を見た。いや。普通でしょう? え?

 

 

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