第6話

「次はポリー君の番だね。本当に大丈夫?」


 先に食べ終えたウリさんが、心配そうに僕を見た。


 僕の共犯者はとても真面目でやさしい人だ。自分のせいで僕まで親を裏切ることになったと思っている。


 でも、そうじゃない。


「こっちは行く気満々だよ。なんたってお賽銭のために千円札崩したからね」


 底に沈んだ麺をしつこく追いながら、僕は笑った。


 告白すると、僕は生まれてこのかた初詣に行ったことがない。神社にもだ。

 それは宗教上の――親の信条に根拠があって、たぶん初詣に行ったとバレたら僕は親から嫌な顔をされる。正月早々説教かもしれない。


 でも、大みそかと初詣は、僕とウリさんが共犯者になって、硝子の天井からひょいと顔を出すのにもっともふさわしい組み合わせだった。


 それでいて僕は今日という日が来るのをとても楽しみにしていて、今ぜんぜん後悔していなくて、なんなら今度は違うカップ麺をウリさんと一緒に食べたいと思っている。――これ、神社で願掛けしたら叶うんだろうな。


 僕は最後の一滴まで出汁を飲みほし、汗をかきながらコンビニを出た。


 遠くで除夜の鐘が鳴っている。神社へ向かう道路に車が列をなしている。


「さむーい」


 ウリさんの口元で白い息がふわふわ揺れ、僕はひとときその晴れやかな横顔に見とれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大みそかの共犯者 きりしま @kir_undersan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ