第22話 寝る皇子、山岳地区を調査する

「おはよう」


「え、おは、おはようございます?ネルス様頭は大丈夫ですか?まだ朝ですよ?」


珍しく朝にすんなり起きてきたネルスを見てチュータロウは戸惑ってしまい思いもよらぬ言葉を発してしまった。


「ほー。酷い言われ様だな。これからは朝起こされても絶対に起きんからな」


それに対し言われた本人は意にも介した様子も見せず、面白いオモチャを見つけたかのようにチュータロウを揶揄う


「そ、それは言葉の文でして。ところで今日は一体どうしたので?」


「昨日風呂に入ってる時にギリーと会ってな。今日は周辺の調査に出るからついてこないかって誘われてな。たまにはいいかと思って俺も参加することにした。」


「なるほど。ギリー隊長の隊は確か今日は山岳地区の調査でしたね。ネルス様に限って心配はないかと思いますが、お気を付けて行ってらっしゃいませ。」


「あぁ、ありがとう。では行ってくる。」


その後、食堂で朝食を摂ったネルスはその足で外壁へと向かった。

そこでは既にギリーとその部下25名が整列して待っていた。

もともと20人隊として19名の部下を指揮していたギリーとヒョウガだったが、エレーナが置いていった人族の騎士6名をそれぞれの隊に加え、25名の部下を持つようになっていた。

力のミノタウルス、速さの黒豹族、技の人族とそれぞれ異なる種族が合わさる事で隊の実力は確実に成長を遂げていた。


なお、サテュロスたちは肉体労働よりも頭を働かせるのが得意だということでチュータロウやスリーソンズと共に内政官として働くこととなった。


「すまん。待たせたか?」


「問題ないンモ。じゃあ出発するモー」


「「「オー」」」


ギリーの掛け声と共に一斉に隊が動き始める前方には斥候係として黒豹族と人族のペア2組が配置され、周囲を警戒しながら移動を始める


「今日行く山岳地区には何かありそうなのか?」


「魔物の知り合いを探してるンモ。これまで他の山岳地区も探したけど見つからなかったから多分今日行く所にいると思うンモ」


「どんな種族が住んでるんだ?」


「沈黙の狩人と呼ばれる種族が住んでるンモ」


「またえらく物騒な種族だな。」


「何もしなければ穏やかな種族ンモ」


そんな会話をしつつ、道中を進むネルスたち。

時たま魔物に襲われることはあるものの、そこはギリーの部下たちが危なげなく倒していく。


「ここか。特に何も住んでそう『うわぁー』」


特に変わったことのない山岳区域じゃないかと言いかけた時、先頭を進んでいた人族の騎士が穴に落ちる。

その瞬間一斉に警戒態勢を取る隊員たち。


「大丈夫ンモ!敵じゃないンモ!」


ギリーの掛け声で警戒を解く隊員たちをよそに、ギリーはドシドシと穴へ近づいていく。


「やっぱりここだったかンモ!久しぶりンモ!ドリー!」


「その声はギリーかモグ?この人種もギリーの仲間かモグ?」


「おいの部下だンモ!だから放してやってほしいンモ!」


穴の中では腰あたりまで土に埋められた騎士が二足歩行のモグラの鋭い爪を首に突き付けられていた。

しかしギリーの部下だと聞いたモグラがあっという間に騎士の周りの土を除けて解放する。


「彼がギリーの言ってた知り合いか?」


「そうだンモ!彼らはドリルモールという魔物であいつはその長のドリーだンモ。ドリルモールは鋭い鋼鉄のような鼻と爪を武器に穴を掘ることが出来るンモ!彼らのテリトリーに入ると気付いたときには穴の中ンモ」


「なるほど…だから沈黙の狩人か。」


身長は1m程で茶色の体毛に覆われて可愛らしい顔をしてはいるが、鼻はドリルのように鋭く尖っており、爪も20cm近くあることからあれで突き刺されると一巻の終わりだろうとネルスも理解する。


「誰彼構わず殺したりはしないモグ。あくまで敵意があると感じた場合だけモグ。だからそいつも殺さなかったモグ」


「それは助かった。俺はネルス、ギリーたちと新しく街を作ってそこの領主をやっている。よろしく頼む」


「今日はおいたちの街に移住しないか誘いに来たンモ!あそこなら今みたいに隠れて過ごさなくても大丈夫ンモ!」


ドリルモールは慎重で争いを好まない穏やかな性格が特徴の種族である。

他の種族の争いに巻き込まれるのを嫌い地下に潜り住んだはいいものの、平野部だと外敵に発見されることも多く、他の生物が寄り付かない山岳地区を主なねぐらとしていた。

彼らは身を守るために山岳地区の周囲には多数の落とし穴を掘っており、外敵が現れた時は容赦なく穴に引きずり込んで始末することから、いつしか周囲の種族から【沈黙の狩人】と呼ばれるようになっていた。


「本当にそんな場所があるモグ?」


「本当だンモ!今ではおいたちミノタウロスにサテュロス、黒豹族、ブラウニーたちまでいるンモ!」


「その通りだ。ドリーたちが良ければウチの街に来ないか?地下が好きなんだったら地下街を作ってくれても構わん」


「いい話だと思うけどみんなに相談してみないことには答えられないモグ。説明するのにギリーとネルスにもついて来てほしいモグ」


そう言うなり、落とし穴の中に大きな横穴を掘り始め突き進んでいく。

ネルスとギリーは黙って彼のあとについて行くことにした。

そして、5分程掘り進んだところで大きな地下通路とつながった。


「ここを右に曲がると里があるモグ。ん?どうしたモグ?そんなゴミを見つめて」


「これがゴミ…?」


ドリーが指さした反対側には大きな石が山のように積まれていた。

それを見たネルスは吸い寄せられるように近づきその一つを手に取った。


「これはミスリル…」


それは帝国でも滅多に流通することのない超希少鉱石であるミスリルだった。

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