第16話 寝る皇子、婚約者を紹介する


そして迎えた2日後、ネールスロースはかつて無いほどの緊張に包まれていた。

外壁の門は大きく開かれ、ネルスは隣に満足そうな顔をしているフランメを立たせエレーナを迎える準備をしている。

他には各種族の代表とフレデリック、リュークといった面々が後ろで控えている。


そこに豪華な馬車とそれを護衛するように並走する100名の騎士団が門の前で一斉に停止する。

その中からカーソンが出てきてネルスに頭を下げる。


「ネルス皇子、この度は視察団を受け入れて頂きありがとうございます。」


「いや、大丈夫だ。それよりも早く母上に挨拶がしたい。」


「今お越しになられるかと。」


豪華な馬車の扉が開かれ、銀髪の美女が降りてくる。

もう既に39と40歳間近なのだが、とてもそうは見えない程の美女だ。


「元気そうね、ネルス。短い期間でこんなに立派な街を作って母さん感激したわ。」


「母上こそお元気そうでなによりです。これも皆が協力してくれたからです。」


「ところで、隣にいる方はどなたかしら?母さんにも紹介してくれないかしら?」


「こちらは私の妻となる予定の爆炎龍フランメです。」


「フランメじゃ…です。」


「フランメさんというのね。とても美しいわね。ん…?今物騒な言葉が聞こえたような気がしたけれど、もう一度言ってくれるかしら?」


周囲の護衛の騎士たちも皆一様に頷いている。


「ええ、ですから妻になる爆炎龍のフランメですよ。」


「「爆炎龍!?」」


これには我慢し切れず周囲の騎士も声を上げてしまう。


「ネ、ネ、ネルスちゃん?いつの間にそんな冗談を言うようになっちゃったのかしら?」


これにはこれまで対外的な口調で話していたエレーナの口調が崩れる。

しかし騎士たちも混乱しており、それを指摘する者もいなかった。

これこそがネルスたちが考えた作戦だった。

普通に出迎えるとエレーナにペースを握られ、ネルスが怒られるのは必定。

そこで先に想定外の事実を突きつけ、こちらのペースで話を進めていく作戦だった。


「フラン、すまんが母上が見たいそうだから龍の姿になってくれるか?」


「義母上殿が言うなら安いものじゃ。」


そしてフランメが飛び上がると上空に巨大な赤い龍が出現する


「ほ、ほんとうに爆炎龍…。ネルスちゃんあなた…。」


これにはエレーナも言葉を続けられなかった。

人型に戻り、エレーナの元に歩み寄るフランメ。


「どうじゃ?義母上殿。これが我の本当の姿じゃ。」


「すごいわね!びっくりしたわ!それよりもネルスちゃんとの馴れ初めを聞かせてくれるかしら?」


「そうじゃろ、そうじゃろ。あれは我が寝ていた時じゃった…」


そこはやはりユニーク持ち、その目で龍王であることを見れば一気に現実として受け入れた。

それ以上に何の打算もない笑顔で話しかけてくるフランメが好ましかった。

あまりにも強大な力を持つ息子に結婚は期待できないと思っていたが、爆炎龍である彼女ならネルスの横にいてくれるだろう。

エレーナは安心するとともに、心底ここへ来てよかったと思っていた。


「盛り上がってるところ悪いが、中へ案内させてくれ。こちらも歓待の用意をしてるんでな。」


もう大丈夫だろうといつもの口調に戻したネルスが声をかける。


「そうね。じゃあフランメちゃん案内してくれるかしら?」


「任せるのじゃ。」


「騎士たちに言っておく、この街には魔物も生活しているが、あいつらも住民だから間違って手出しするなよ。」


騎士たちも目の前で龍王を見せられて放心していたが、ネルスの声で我に帰る。


そしてネルスたちが先導し、内壁を通り屋敷へと到着する。

エレーナやカーソンといった役人は屋敷の中へ、騎士たちはフレデリックに案内され隣接する訓練所へと案内されたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る