第13話 皇帝、タジタジになる


こちらもネルスが辺境領主を言い渡された翌日、皇帝の執務室は大荒れに荒れていた。


「あなた!私のネルスちゃんが辺境領主だなんて聞いてないんだけど?一体どう言うことかしら?」


恐ろしい形相で賢帝に詰め寄る銀髪の美女は賢帝の妻で【慈母の才】を持つ事から【慈母様】と呼ばれるエレーナ

これには賢帝といえどもタジタジになるしかなかった。


「お、落ち着け。ネルスは帝都にいても好きな事も出来ないとボヤいていた。ならば辺境に行かせて自由にさせてやった方がいいと思ったから辺境領主を任せたのだ。それについてはリチャードとユリウスも理解しておる、な?」


話を振られた賢帝の弟で宰相のリチャードと息子のユリウスは迷惑そうに肯定する。

2人はエレーナが怒った時の恐ろしさを十分に理解している。

ここで口を挟めば自身が危うくなる。

ここは逃げの一手しかない、そう考えていた。


「あら、2人も賛成なのね。でもロストアースなんて凶暴な魔物や見た事もないよう種族がうじゃうじゃいる危険地帯だって聞いてるわ。そんな所に放り込んで大丈夫なのかしら?」


リチャードとユリウスが肯定の意を示した事で少し落ち着いたものの、エレーナはまだ納得はしていなかった。


「あのネルスだぞ?問題などあるまい。それにフレデリックもつけた上にリュークまでついて行ったたらしい。あの3人で敵わん化け物などそうそういないだろう。」


そう言われるとそんな気もしてくるエレーナ。

エレーナは自身がユニークを持つお陰でネルスがユニークを持っている事をいち早く理解し、1番そばで見守ってきた。

だからこそネルスの力が異常であることも一番理解している。

それに老齢とはいえあの矛盾のフレデリックと多才なリュークがそばにいるという。


「それもそうかもしれないわね。あの子には私たちの都合でこれまで我慢させてきてしまったから。」


「そうです、母上。ネルスには私のせいでずっと不自由をさせてきました。兄としてもここでつまらなそうに過ごすよりもと思い、父上に賛同致しました。何よりネルス自身がそれを望んでいました。」


ここぞとばかりに援護射撃をするユリウスを見て、いいぞと目で合図する賢帝とリチャード。

そんな様子に気づくこともなく、エレーナは結論を出す。


「ならわかったわ。私が辺境まで行ってネルスちゃんの様子を見て来るわ。

私怒ってるのよ?何の挨拶もなしに出ていったネルスちゃんにも。」


これは止められない。

挨拶くらいしていけよ!なんてことしでかしてくれたんだ!と3人は心の中で叫ぶ。


「わ、わかった。ちょうど3ヶ月後に視察団を派遣しようと思っていたのだ。それの代表をエレーナに任せる!」


「3ヶ月後ね。まぁ仕方ないわね。それまで我慢するわ。」


その言葉を聞き、胸を撫で下ろした3人だった。


そして10日後政務室にスペード家とクローバー家から緊急の要請があると使いがやってきた。

そして用件を聞くなり皇帝と宰相、第一皇子の3人は顔を見合わせ思わず微笑む。


「「「ネルスがやったな」」」


街がいきなり半壊するなどネルスの重力魔法以外ない。

3人は素早く答えに辿り着いた。


そして使い道の無い第二、第三皇子など子爵家へ降家させて問題なかった。

むしろ皇族という立場に居座られる方が面倒臭いし、さっさと追っ払おうというのが共通認識だった。

それに辺境に追いやると暴発を期待できる分、皇家にとって利しかなかった。


しかし、スペード家とクローバー家の申し出も理解は出来るものだった。

トランプ連合国の復活を望む両家にとって跡取りとなり得る者は両皇子しかおらず、選択肢は他になかった。


「ネルスが早速働いてくれたか。」


「ウチのバカ息子が嬉々として襲撃をかける姿が目に浮かぶ…」


「ネルスもリュークも決断すると早いですからね。頼もしい弟たちですよ。」


ユリウスは産まれて早々母親方で育てられていた第二、第三皇子よりもリュークのことを弟として可愛がっていた。


「これで奴らは暴発するしか道はないな。笑いが止まらん。」


「そうだな。兄上の想定以上の結果だ。流石は覇王帝たる父上に我が道を継げるのはネルスのみと言わしめただけはある。」


「まぁ奴らはネルスに任せるとするか。」

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