第12話 元王族貴族、驚愕の報せに驚く

時はネルスが辺境領主を言い渡された日に遡る


スペード子爵は自身が練りに練った計画が不発に終わった事で非常に焦っていた。

いや、その計画をきっかけに同盟貴族たちの降爵に繋がり、皇帝によって力を削がれたことでこれまで以上に追い込まれていた。


しかも東征将軍のガルガロッソにまで目をつけられているときた。

これは非常にまずかった。


「今すぐ領地に人をやって獣人たちを人目に付かぬところで働かせるよう徹底しろと指示を出せ。」


ジョルジュが今出来ることは領地へ指示を出し、同盟貴族たちと次の動きについて相談するしかなかった。






10日後、ジョルジュの元へ驚愕の知らせがもたらされた。

スペード領の娼館で働かせていた獣人が行方不明だという。


「なぜだ。なぜ誰も気づかんかったのだ!娼館にいた者たちは何をしてたのだ!」


「娼館にいた者は皆殺しにされていたようです。その中に御子息が含まれていた模様です。」


「な、なんだと…今なんと言った?息子が死んだ?」


「残念ながら…。獣人を相手に遊んでいらっしゃったようです」


あの獣人奪回作戦が決行された日、フレデリックに皆殺しにされた者の中にスペード家の跡取りが混じっていたのだ。


「な、なんだと。あの馬鹿息子め…あれ程獣人で遊ぶのは辞めておけと言っておったのに…」


ジョルジュは涙を流し悲しんでいたが、1時間ほど悲しみに耽ると気持ちを切り替えクローバー家の屋敷に向かうことにした。


クローバー家の屋敷に到着し、いつもの応接間に通されたものの屋敷の中が妙に騒がしい。

ジョルジュは嫌な予感がしつつも、当主であるマキシムが来るのを待った。


「ジョルジュ殿、お待たせして申し訳ない。先程領地より危急の知らせが届きましてな。」


「こちらにも危急の知らせが届きましてな。マキシム殿の方はどういった用件で?」


おそらくクローバー領も獣人がいなくなったのだろうと思いつつ話を切り出すジョルジュ。


「それが領都が半壊したとの知らせが。しかも屋敷は全壊、私の家族も全員が亡くなったと…。」


「なっ!なんと!そんなことになっていたとは。一体誰がそんなことをやったか目星は?」


「いえ、それが全く。いきなり屋敷が崩れ、その後はたて続けに街や城壁が崩れていったそうで。ところでジョルジュ殿の方の火急の知らせとは?」


「こちらは獣人を収容していた娼館が何者かに襲撃されその場にいた跡取りが殺されました。しかも獣人たちは行方不明でさっぱりです。ちなみにそちらの獣人たちの様子は?」


「こちらは獣人たちを詰め込んでいた施設も崩壊し、生き残りもいないだろうと報告が。」


「ということは襲撃犯は別?私たちの方はガルガロッソ将軍の仕業ではないかと睨んでいたのですが。」


「そのようですな。しかしまずは領地の立て直しが必要です。街が半壊の上、労働力となる獣人も失ってかなり厳しいですが…」


「獣人などまた狩ってくればと言いたいところだが皇帝に睨まれているかもしれんし、今回の件もガルガロッソ将軍が関与しているとまずいことになる。何か手伝える事があったら言ってくれれば出来る限りのことはさせて頂こう。」


「かたじけない。」


「なんの、これもトランプ連合国のためです。」


「しかし、我ら共に後継がいなくなったのはまずいですな。」


「我らの血を引く第二、第三皇子に来て頂くしかあるまい。」


「やはりですか。前回のことで皇帝に睨まれてしまいましたし、帝都から引き離し領地で巻き返しを図る方がよいかもしれませんな。」


「気が重いが皇帝に相談するしかあるまい。」


こうして彼らは皇帝に何者かの襲撃により息子たちが死亡。

後継がいないため、第二、第三皇子を跡取りとして貰えないかと申し出た。


前回のことで何かまた抑えつけられるかもしれないと恐れていたのだが、何のお咎めもなくあっさりと要望が通ったことに胸を撫で下ろしていた。


この一連の事件を通じ彼らは思いもしなかった。

無能で怠惰だとこき下ろした皇子の手によって自分達の街が半壊させられたなどと。

そして、報告を聞いた皇帝の口角が上がっていたことを。

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