第7話 寝る皇子、新天地候補を探す
翌日、朝早くからネルスはリュークとフレデリックと共に空の上にいた。
まずは三人で先行し、新たな街とする候補地を見つけるためだ。
「なんだかこの辺りから空気が変わるな。流石はロストアースってことか。」
「確かにこの辺りからは魔力が濃いのぅ」
「俺たちだと大丈夫だろ。気楽にいくぞ」
そんなことなど気にしないとばかりに飛んでいくネルス。
そして、ああだこうだと空から見て周り、良さげな土地を発見した。
「川にも近いし、辺りは開けてる。それにロストアースのそれ程奥でもないから帝都とのアクセスも悪くない。やはりここが1番だな。」
しかし問題は近くに小さな集落があることだった。
「話してみないことにはわからんし行ってみるか。」
3人は集落から少し離れたところに降り立ち徒歩で集落へ向かう
「ん?牛の獣人か?」
集落の出入り口には筋肉隆々で頭から牛の角を生やした屈強な2人の男が立っていた。
「なんだモ!みない顔だモ!」
「本当だモ!何の用だモ!」
2人の男は警戒しつつも、話は成立しそうですぐに戦闘になるという訳ではなさそうだった。
「この近くに新しい街を作ろうと思ってな!近所だし挨拶ともし良ければ俺の作る街に来ないか勧誘しようと思ってな」
「俺たちだとわからないモ」
「長を呼んでくるモ」
そう言って片方の男が集落の中へ入っていく。
その様子を見ていた3人はあまりの警戒心の無さに拍子抜けしていた。
「モ?気を抜きすぎじゃないか気にしてるのかモ?お前たちがかなり強いのは気配でわかってるが邪な気は感じないし、いざとなったらおでたちミノタウルス族はそう簡単にはやられないモ」
「ん?ミノタウロス族?牛の獣人じゃないのか?」
「違うモ!おでたちはミノタウロスだモ。」
ネルスたちが牛の獣人かと思っていた彼らは魔物のミノタウロス族だった。
魔物は獣人や人間といったヒト種と違って心臓ではなく体内にある魔核から供給される魔力によって活動しており、魔力さえあれば寿命もヒト種を大幅に超える。
ただし、より本能に忠実に生きる傾向が高く、戦いによって命を落とすことも少なくない。
「ミノタウロスといえば帝国軍の定める魔物ランクでもAランクに入るほどの猛者ですな」
この大陸の他の国では冒険者ギルドといって魔物を狩ったり市民の悩みを解決したりする組織があり、そこで魔物ランクが設定されているのだが、帝国では冒険者ギルドはほとんど力を持たない。
なぜなら大陸最強の帝国軍が害のある魔物を退治しまくっているからだ。
その屈強な帝国軍をしても上から三つ目であるAランクに指定する程の強さを誇るのが目の前にいるミノタウロスである
「へぇ強そうだな!戦ってみたいぜ」
「まぁ待てよ。しかし、ミノタウロス族か。ますますおれの街に欲しいな。」
ネルスは新たな街を作る上で今1番必要なのは500人を超える獣人を守れるだけの武力だと考えていた。
今いる獣人には戦闘向きの種族はいないので戦えるのはネルスたち3人のみ。
厳しい環境のロストアースでは危険が迫った時に対処出来るか懸念があった。
しかし、Aランクと強さが自慢のミノタウロス族を仲間に加えることが出来ればその問題は解決する
「おーい。族長が中に入ってこいって言ってるモ!」
族長を呼んでくると言っていたもう一人の門番が戻ってきた。
3人の強そうな来客があると伝えると面白そうだな、連れてこい。と二つ返事だったらしい
門番の片割れ、ブームという男について集落の奥へ進んでいく。
両側には多くのミノタウロスが興味津々といった感じでネルスたちを見ていた
「おー確かに強そうだモ」
「久しぶりに面白そうな戦いが見れそうだモ」
周囲が既に戦う前提で話を進めていることに面倒くさい事になったと感じつつも戦いになれば必殺技があったなと思い出すネルス。
大きめの小屋の前でブームが立ち止まると小屋から一人の男が現れる。
ブームたちも2m程の巨漢だったのだがそれよりも更に50cm程大きい。
「ンモ!おいが族長のギリーだンモ!客ってのはお前たちだなンモ!用件はブームから聞いたンモ。おいたちは強い者にしか従わないンモ。だからおいと戦うンモ」
こうして何故か挨拶に来てあわよくば勧誘するだけだったはずが、ミノタウロスの族長と戦うことになったのであった。
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