第25話 人気者になった転校生と相変わらずの俺達

 例の転校生は瞬く間に学校中にその名が知れ渡った。始業式から2日後にはその姿を一目見ようと休み時間に学校中の生徒が2年6組の教室に押しかけ、その翌日にはもう彼女に告白する人が現れ、1週間後には穂香と同様のファンクラブが誕生しクラスの女子数人が彼女の取り巻きとなった。


「人気者だな、あの転校生」


「どうしたの、もしかしてユージは瀬川さんに興味があるの?」


俺が呟いたことに涼が反応した。


「興味っていうか、あの人がいると教室が騒がしいなって思ってさ」


「そこはせめて賑やかって言うべきだと思うけどね」


「にしても、この学校って情報出回るの早くないか?始業式から3日もしないくらいでもう他学年の生徒まで教室に来たろ」


「これは勝手な想像だけど、常に新聞部が情報網を張り巡らせてるから新聞にしなくとも噂はすぐにそこから出回ったって思うんだ」


「なるほど、名推理」


「ふふん」


さすがは涼だ。あとさすがは新聞部だ。


「だとしても飽きるだろ」


「美人は何度見ても飽きないって言うしね」


「誰の言葉だよ」


「俺の言葉」


「聞いたことがないわけだ」


すぐにいつもの調子のいい涼に戻った。


「でも、瀬川さんはこうやってみんなが集まってくるからこの学校にいる人のほとんどを知ったと思うね」


「確かに、いきなり初めての場所に来たのにみんなが友好的に接してくれるからその辺りの不安要素は無くなってるんじゃないか?」


「そうだね、そういうときに美貌というのはかなり役に立つね」


実際、優しさであれど下心であれど彼女は人を寄せることに関しては恵まれているんだな、そう思った。その転校生とそのそば付きのような二人の女子生徒がこちらを見ながら話していた。なんか嫌な予感しかしない。


「涼、トイレ行くぞー」


「今回はやめとくよ」


「なんでだよ、いつもついてくるのに」


「ユージがそんな誘いをするときは何か面倒事から逃げるときって相場が決まってるからね」


クソっ、妙なところで鋭いな。


「で、ユージの面倒事は何かな?」


「大した事じゃないんだが、嫌な予感がするんだよ」


「何の話をしてるんですか?」


声のする方向へ顔を向けると、さっきまで教壇辺りにいたはずの転校生と取り巻きの二人の姿がすぐ近くにあった。なぜか取り巻きの二人は転校生の後ろで少し震えていたが…。

急に現れたため、思わず身構えた。


「そ、そんなに警戒なさらずとも…」


「すまん、いきなり現れたからつい…」


「気をつけたほうがいいよユージ。見てよ、後ろの二人が怯えてるよ」


涼に言われて見てみると、目が合った瞬間に「ヒィッ!」という声をあげて二人がくっついて縮こまった。まあ、あの二人はほっとこう。


「それで、何の用でここまで?」


「実は、この学校に通って一週間も経ったのにこのクラスであなただけ未だに挨拶もしていなかったのでご挨拶をと思いまして」


逆にこのクラスの人たちは挨拶はしたのか。


「涼も会話したことあるのか?」


「ああ、美萌と一緒にね」


「ほとんどの方はすれ違いざまに挨拶するか向こうから私のほうへ来てくださるんですが、伊藤くんとはその両方ともありませんでしたから」


「挨拶もしてないのに俺の名前をなぜ知ってる」


「ここのクラスの人については後ろの二人が教えてくれました」


二人が頷いた。


「伊藤裕司くん、昨年度の定期テスト・実力テスト全てで学年一位を取った通称【冷徹の貴公子】」


「最後のやつは余計だな」


「そうですか?かっこいいじゃないですか」


マジか。俺が気に入ってないだけであの二つ名が周りには浸透してるのか?


「そういうあなたは私のことは分かってるんですか?」


「……………」


「…まさかとは思いますが…」


「すまん、転校生だということしか分からん」


正直に告げた。その瞬間、教室中の空気が固まった。そんな中で涼が笑っていた。


「あっはっは!そういうところやっぱりユージらしいよ」


「それ褒めてんのか?」


「受け取り方はご自由に」


貶されたと受け取っておこう。


「あのー伊藤くん、自分で言うのもなんですが私かなり学校内で有名になったとおもうんですが」


「瀬川さん、ユージにそういうのをあてはめちゃダメだよ。ユージの興味の範囲は狭いからね」


「今さりげなく私に興味がないと言われた気がするんですが」


「確かにないな」


「酷くないですか?」


「これがユージが【冷徹の貴公子】なんて言われる所以だね」


涼に言われて気がついた。傍から見ると俺ってかなり冷たくね?


「まあいいです。これからは私にも興味を示してください。私の名前はカレン・瀬川です。ちゃんと覚えてください。」


そう言って右手を出してきたので握手をした。教室が少しどよめいた。


「これからよろしくお願いします」


「こちらこそよろしく」


俺と瀬川さんは軽い挨拶を済ませて別れた。ついでと言ったら申し訳ないが瀬川さんの後ろにいた取り巻き二人の名前が関屋 澪(せきや みお)、夢野 浮羽(ゆめの うきは)だということを知った。


「どうユージ、瀬川さんと仲良くなれそう?」


「さぁな」


「ん?何の話?」


俺と涼の会話に穂香と美萌が入ってきた。


「ユージが瀬川さんと仲良くなれるかって話」


「ユージくんが私達以外の人と仲良く?」

「…………」


美萌が疑問符を浮かべていた。その横で穂香が複雑そうな表情をしていた。


「どうしたのほのちゃん?なんか気難しそうな顔して」


それに気づいた美萌が穂香に聞いた。


「別に、裕司も他の人と仲良くできるんだなって思っただけ」


「でも瀬川さんは穂香より仲良くなれる気がしないな」


「!」


俺のつぶやきに穂香が反応した。


「んふふふ~!ねえ裕司、私は裕司と一番仲良い人?」


「ん?そうに決まってるだろ?」


俺がそう言うと穂香はものすごい笑顔で俺に抱きついた。クラス中の視線を無視して。

結局休み時間が終わるまでずっと俺は穂香に抱きつかれていた。







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陰キャな俺と陽キャな幼馴染の絡み方 タクラス @taku-3n

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