第24話 新しいクラスと転校生

 最初は俺たち4人しか教室にいなかったが時間が経つにつれてだんだんと人が増えてきた。その頃には穂香も満足したのか抱きつくのをやめていた。そして少し気になったのが教室に入ってくる際に男子は穂香と美萌を、女子は俺と涼を見ていた。何なのだろう。まあ当の俺たちは全然気にすることなく会話していたが。


 そして予令のチャイムが鳴ってみんなが思い思いの席に座った。鳴り終わると同時に教室のドアが開いた。入ってくる人を見てクラス中が歓喜した。そしてその人を拍手で出迎えた。


「今年も恵理先生だー!」


隣の穂香も前の涼と美萌も例外ではない。


深町恵理(ふかまち えり)、24歳、独身、絶賛彼氏募集中らしい(本人がそう言っていた)。年齢が俺たち高校生と近く美人で明るいことから男子からも女子からも人気の先生だ。去年の俺たちの担任もこの人だった。


「はい、今年は2年6組の担任になった深町恵理です!みんな、今年1年よろしくね!」


言い終わると同時に拍手がまた増えた。その熱狂っぷりに圧されている俺がいた。そして拍手が収まってくると先生が再び話しだす。


「それで、みんな思い思いの席に座ったかな?今年1年は基本的に今の席になるからね!」


その瞬間またも歓声が起こった。俺も心の中で喜んだ。1年間後ろの窓際の席、最高。右を見ると穂香が俺を見て今にも抱きついてきそうな感じでいた。


「抱きついていい?」


「だめだ」


「むぅ~!でも、今年も1年間、裕司の隣でよろしくね!」


「ああ」


穂香が手を出してきたので、俺も応じるように穂香の手を握った。

 その様子を教卓から先生が凝視していた。


「はあ~、いいねぇ。私もそういう男が欲しかった!」


「渡しませんよ!」


「盗るなんて一言も言ってないよ?」


「あっ…」


穂香が赤くなった。それを見てクラスの人が温かい視線を送っていた。あと俺はいつから穂香のものになったんだ?


「はぁ、なんで私は彼氏できないんだろう?伊藤くん、なんでだと思う?」


「知りませんよ、俺に聞かないでください」


「私これでも結構真面目に生きてるよ!?」


「それ自分が書いた後ろの文字見ても言えますか?」


そう言うと先生は後ろの「お好きな席でお待ちくださいまし!」を見て「うっ…」と唸った。やっぱりアレは先生が書いたのか。


「やっぱり伊藤くんの冷たさは変わんないね~」


「まあ裕司はこれがいつも通りですから」


穂香がフォローしてくれた。



「まあいいわ、とりあえず始業式あるから早めにこの今の席で座席表を…って思ったけど今のうちにお知らせしておくわ。なんと、このクラスに転校生が来ます!」


そう先生が言った途端、クラス中がざわめいた。


「はーいみんな静かに。今校長室にいるから連れてくるね~」


先生は手を叩いて騒ぎを静めると言い終わると同時に教室から出て行った。みんながどんな人なんだと話していると、数分後に教室のドアが開いた。その瞬間、教室の話し声が止まった。入ってきたのは長い金髪がひと際目を引く美少女だった。身長は穂香より少し高いかと感じた。穂香が165センチだからおよそ170センチといったところか。そして何よりそのスタイルが目を引いた。ボン・キュッ・ボンを体現したような見た目なのがブレザー越しでも分かる。穂香もスタイルはかなりいいがそれを超えていた。


「カレン ・ 瀬川(せがわ)と言います。アメリカからきた日本人の父とアメリカ人の母の間に生まれたハーフです。どうぞよろしくお願いします」


彼女がそう言ってお辞儀をすると同時に本日何度目かの拍手が教室に響いた。


「はい、聞きたいことは山ほどあるだろうけど、そろそろ始業式始まるから教室出るよー!」


先生がそう言うとみんな素直に移動し始めた。


その後、始業式で学校の先生のありがたい(?)話を聞いて教室で深町先生から諸連絡を受け取って帰ることになった。が、例の転校生こと瀬川さんは帰ることができずにクラスのみんなから質問攻めにあっていた。俺たち4人は気にせず帰ることにした。


「裕司は行かなくて良かったの?」


「言わなくても分かってるだろう?俺はああいうのは興味ない」


「じゃあ今興味あるのは何?」


「穂香が昼ご飯に何をご所望か」


「…牛乳とか生クリーム使ったのがいいね」


「じゃあカルボナーラにするぞー」


「うん!」


満面の笑み、かわいい。軽く頭を撫でて歩き出す。その後ろで見ていた二人は、


「ほのちゃん嬉しそうだね」


「そりゃあ好きな人とずっと一緒なんてこれ以上ない幸せだからね」


「涼くんは私と一緒で幸せ?」


「もちろん、好きな人と一緒だからね!」


……バカップル。


学校の近くで二人と別れて俺と穂香は家に帰る。なんで穂香はナチュラルに自分の家ではなく俺の家に入ってただいまなんて言ってるんだろう。受け入れてる俺も俺だが。リビングに入ると穂香が後ろから抱きしめてきた。


「どうした?」


「しばらくこうさせて」


「学校で抱きついていいか聞いてたときのアレか?」


「………うん」


「だったら俺も穂香のこと抱きしめたいからちょっと離してくれないか?」


「ッ!うん!」


そう言うと穂香は俺を解放し、前にまわってきて俺を抱きしめた。そして俺も優しく抱き返す。


「今年もよろしくな、穂香」


「これからもよろしくね、裕司」


二人が満足するまでずっと抱きしめていた。ただそれには結構時間がかかった。

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