第38話 その子は

 やがて、壁のなかに町に、車が一台入って来た。外国の車みたいな、ちいさなトラックだった。ちいさな川だったら、そのままつっきってゆけそうなくらい、つよそうなトラックだった。

 トラックが家がラナさんの前にとまった。そして、運転席のドアがあく。

「ただいなラナぁ、ねえ、見てぇええ! 学校の制服できてたよ! けっこうかわいいし!」

 ドはしゃぎした、女のひとが学生服を掲げながら降りて来た。それは、よく見知った、うちの学校の女子生徒用の学生だった。

「これであしたからラナも学校いけるねー」

 女のひとはにこやかに、学生服を抱きしめ、小躍りしながら近づいて来る。よく見ると、目以外の雰囲気はラナさんに似ている。

「ねええ、ひひ、やったねえー、もう、ラナがこれ着てがっこういったら、一瞬で人気ものだし! ふふふー」

 歓喜の感じを無差別に放出しながら近づいて来る。けど、ふと、娘の隣に、見知らぬ者が立っているのに気づき、あきらかに、おや、という顏をした。「あれー、その子はー」と、聞きかけて、すぐ、ふたりの背後の壁が吹き飛んで壊れているのが目に入ったらしい。

 動きが完全に止まった。時をとめる、魔法にでもかかったように。

 みごとに、ぴたりと。呼吸しているのかも疑わしいぐらい、芸術的な停止だった。

 その間に、助手席から男のひとが降りて来た。目が大きくまるい男の人だった。

 さみだれ式に入ってる来る新規情報に、あたまが混乱してやられそうになっている最中、女の人が両手で頭をかかえ。

「いやあああああゾンビを防ぐ壁がぁああああ!?」

 叫んだ。それこそ、ゾンビに咽喉でも喰われたかというほど。

 それで、思った。そうか、そこの部分は真実だったのか、ゾンビの部分は。だからといって、どうという感情もわかないのは、きっと、今日いちにちの成果ともいえた。

 ここまで来て、いまらさゾンビなど。いまさらその程度の真実など。ノーダメージさ。

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