第33話 路上でダイヤモンドでも発見したかのような反応で

 雨が降り出した。ざあざあ、ぶりだった。地球を破壊せんばかりの勢いで降る、ほとんど天の怒りといっていい。いったい誰がかっただろうか、天から怒りを。

 騒ぎを聞きつけ、コンビニの内外に、およそ四十人の町のひとたちと、つれてこられた小型犬が二匹集まった。二匹の犬はトイプーとパグで、二匹とも愛くるしい外見で、犬は犬同士ですごく吠え合っていた。

 その犬を飼い主のおじさんは、殺気だった状態で抱いていた。

「おい、このコンビニが無くなるときいたもの!」

 犬の散歩中にきいたんだろうか。雨の中で叫ぶ。外にいる人たちのはんぶんは店で買ったビニールの傘をさしていた。そして売り切れたので買えなかった人たちは透明な雨ガッパを着ていた。でも、それも売り切れてしまい、残りの人たちは、店のなかか、ちいさな軒先で雨をしのいでいる。

 ラナさんとシキさんはそれぞれ店所有の傘をさしていた。でも、二本しかなく、ふたりのさす傘の間に入れてもらう。でも丁度、二つの傘の合間に立ったので雨粒がぼたぼた頭や肩に落ちてくる。

「もっと身体を寄せて入んなよ」

 そうシキさんがいってくれた。が、顏を左右にふってみせた。

「そうかいな」

 なぜ顔を左右にふったのか理由はきかれなかった。

「どうするんだ!」集まった人々は叫ぶ。「どうすればいんだい!」

「そして、なんだ! おれたちはなんでここに集まってるんだぁ! 集まることに意味はあんのか!?」

「そんなことよりだぁ! この店がなくなると困るぞ、猫砂を遠くまで買いにことになるだ!」

「阻止を、阻止る方法とか! なんとかならんのかねえ!?」

 騒ぐだけ騒ぐ。つよい雨のなかでも元気だった。みんな、この町のひとたちは生命力がつよい証拠だった。

 けど、今日は四月三十二日だった。あのデジタル時計の表示と同じで、みんなもそこそこやられてしまっている感じがある。

 もしかして、ここは人間が住んではならない土地なのではないか。そういう説も想像したけど、真実は後回しにしておく。その間も、ふたつの傘のあいまから、ちいさな滝のように、雨がつむじや、肩に落ちて来る。もう、一回、頭の先まで完全入水したぐらい濡れていた。

「カゼひくよ、サカナくん」

「ラナさん、おれは山育ちです。これくらいの雨、シャワーみたいなものです」

「ほらー、例え話のキレも、最低ランクをマークしてるし。熱がでて、もうとっくやられたりしないかい」いって、手で額をさわってくる。「うん、わたしの手も雨で濡れるから、キミが体温ある生物なのかが、もうわからない」

 ほがらかな会話をしていた。 

 とたん。

「どうすりゃあああああ、いいんだあああああ!?」

 いよいよ、集まった町の人たちの熱気は最高潮に達していた。じゅうぶん、調子にものっていた。そもそも、こんな日中にすぐ集まれる人たちなので、時間はあるし、元気だし、それが集団になって狂うと、そこそこのエネルギー量だった。

 ここだ。

 勘で見極めた。

「解決策発見!」

 ありったけの声をあげた。さらにもう一回。

「ここに発見です!」

 全員がいっせいにこっちを見た。犬も見た。それはそれで迫力があった。

 けれど、臆している場合じゃない。「解決する方法があります」そう発言した。「みつけました、解決策、いま」

「な」すると、まえにいたおじさんがいった。「なんだい、その方法ってのは………?」

 みんながその芝居っけたっぷりのおじさんをみて、それから、ざざ、っといっせにおれをみる。

 雨の中、いったい我々はなにをやっているんだろう。ふとして、冷静さが精神の適正化をはかとうとするけど無視した。まっとうな精神は今日が終わってから取り戻そう。

 取り戻せるかしら。

「倒しましょう!」

 勢いよく叫んで提示する。

「ここにいる、シキさんをつけ回すストーカーをみんなで倒すんです!」

 さらに声をあげた。雨粒が容赦なく額を叩く。けれど、ここで手をゆるめてはいけない。

 人間の心を捨て去る勢いで進めよう。それくらいやんなきゃ突き進めそうもない。

「たおす」と、誰かがつぶやいた。「たおすったって」

「じつはぁ! いま、この町にシキさんをつけ回すストーカーが来ているんです!」

 声を張り上げるうちに、だんだん、自分の人格がなくなってゆくのがわかった。でも、もちこたえないと。

「居場所もわかってます!」

「そうなのか」

 また誰かがいった。そこへ告げてゆく。「みんなでそのストーカーを追い払いましょう」

「なんと」今度も誰かがつぶやいた。だけど、べつの人が「いや、でもそんなことはやっぱり………」と、臆す。

 そうか、たしかに犯罪の完成だった。その通りだった。

 たちまち行き詰まる。

「ま」ただ、その瞬間に思いついた。「まつり」

「まつり?」ラナさんがまるい大きな目で見返してくる。

「まつり………でー………追い払いましょう!」

 出来たての思いつきのため、口調もたどだとしくなってしまった。

「まつり」いっぽうで、町の人たちがいっせいにきょとんとした。

「………そうです!」ここも勢いにまかせた。「まつりで追い払うんです!」

「というと」

 合いの手のごとく、誰かの声が入る。

「敵の待つ場所で! なんだか、ヤバい感じの祭りのふりして追い払うんです! 奇祭を! この町はヤバい町だと思い知らせるんです!」

 いまいちど、吠えた。

「そそ、そ、それあだああああああああああああああああああああああ!」

 町の人たちが同時に叫んだ。路上でダイヤモンドでも発見したかのような反応で、すでに奇祭じみている。これなら、いけそうだった、とばかりに。

 でも、いけそうだという思うことが、はたして、この町は、だいじょうな町なのか、という、新たなるテーマを発生させていた。けど、とりあえず、これもいったん、よそへ置いておくことにした。

 それから誰かが大きな声でいった。

「たたた、太鼓だぁ! 太鼓を持ってこぉぉぉい!」

 あいかわず雨は降り続けている。むしろ、さっきより強くなって、この町を攻撃しているかのようだった。きみたち、落ち着きたまえ、やめとけよ、と。

 けれど、一度火がついたらあとは灰になるまで、といわんばかりに、みんなはヒートアップし続けていた。そのなかで「うっ、というか雨がひどくなってきた!」と誰かがいった。すると「ど、どうする、カッパはもう売り切れだぜ!」と誰かが投げかける。「そうだ、ゴミ袋だ! あれを切って頭からかぶればカッパの代わりになる!」すぐに誰かが、解決策を編み出した。

「ねえ、そこそこのコスメをつかいなさいよ!」そこへ、おばあさんが脈絡のない発言を混ぜてくる。「顏を、こー、いろいろぬって、祭りっぽくするの! そこそこのコスメで!」

 おばあさんの案を聞き、みんな「そ、それだ」と、会心の発案と出会ったみたいな勢いでうなずいた。

 そして、ラナさんだけが「ゾーンに入ってるなあ」と、雨を眺めながらいった。

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