第28話 ビックデータ時代だもの
まとめると、こうだ。
シキさんはむかし『記録の殺し屋』だったという。
むかし、といっても、シキさんの年齢が不明なので、どれくらいのまえなのかは定かではなく、当人から具体的な数値を問題なく確認する会話のセンスはもってないので、たぶん、永遠に不明だった。ただ、とにかく、むかし、シキさんは『記録の殺し屋』だった。
記録の殺し屋といっても、実体は組織みたいなものらしい。組織には別の正式な名前もあるけど『記録の殺し屋』と、呼ばれることもよくあったらしい。
シキさんは、それにはそれなりの修業期間を経てそれになった、と話した。他にも弟子みたいな人たちがたくさんいたらしい。自分から成ろうとする人が半分、それに成るしかなかった人が半分だと話された。
仕事はたくさんあったらしい、いかんせん、ビックデータ時代だもの。ゆえに、需要はたくさんあった。ただ、依頼したくても他の依頼が先に入っていてもすぐに予約が取れない、そんな人気のレストランみたいな状態なのだという。
でも、シキさんはある日、それを辞めてしまった。シキさんは『記録の殺し屋』には、なりなくなってなったワケでもなく、たまたま、生まれ育った場所で生きてゆくために、それになっただけ、と語った。当時は意思を持つ余裕もなかったらしい。
でも、意思が出来たので辞めた。辞めるのはかんたんだった。
ある日、逃げ出す。その一択だった。つよい追っ手がかかることを承知のうえだった。
ちなみに、シキさんには兄さんがいるらしく、小さな頃から一緒に『記録の殺し屋』をしていたみたいだけど、兄さんの方もとっくにそれを辞めてしまって、いまは別の道を歩んでいるという。連絡はあまりとってないらしい。連絡が来るときは、よほどマズいときぐらいなのだという。
とにかく、組織から逃げれば強力な追っ手がかかる。でも、記録の殺しの技術はシキさんいもあって、自信の記録を復元不能にするまで消すのはかんたんだった。だから、記録を復元不能にして逃げた。ちなみに、シキさんは記録の殺し業務のかたわら、コンビニでバイトをしていたらしい。おかげで逃げた先の土地では、どこでもすぐにコンビニのバイトにありつけた。コンビニの仕事内容は、全国どこでも統一感があり、この国の西の端で働いていた経験値は、東の端の店でも同じスキルが役立った。
しばらく、各地を点々と旅をしながら、いろんな町に住んだ。どの町のコンビニも、アルバイトはいつも募集していた。同じ系列のコンビニで、経験者で明日からでも働けると話すと、大歓迎された。
そのやり方でこの一年間、国中、七か所を巡ったらしい。
一年で七か所。そう考えると、すぐ辞めるバイトの人の印象もなくもない。
それはさておき、シキさんは町から町のコンビニ業務を渡り、旅をしていた。そして、一か月前、この町に来た。
ところが、この町にやってきたとほぼ同時に、あることを知った。『記録の殺し屋』の現状についての話だった。
かつて、自分がいた場所が、つい最近、ひどい崩壊したという。
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