第22話 文明の破壊ともいえる行為
笹崎さんには、ラナさんのことは他の参加者にはいわないようにと伝えた。
合わせて、笹崎さんにはいますぐ、ここから立ち去ることも伝えた。彼はそれらにしたがい、ダメージを受けた身体で、よろよろと帰ってゆく。
その後ろ姿を見送っていると、急に、がんがん、ががん、と背後で何か叩く音が聞こえた。見ると、コンクリ―トの地面に笹崎さんのスマホを置き、それをレンガで叩き壊しているラナさんがいた。
「なにやってんだい」
「文明の破壊ともいえる行為」
答えて、まもなく、笹崎さんのスマホは割れて、中身が出て、その中身もまた、ラナさん晴煉瓦で叩き壊す。
「なかなか、キメの細かい蛮行だね」
「丁寧な仕事しているだけ」
「まあ、笹崎さんも不法侵入の上に撮影だし、そうやって丁寧な仕事されてもしかたない」
にしても、良い人そうに見えたのに。人は見かけによらない。
「これでヨーシ」
ラナさんは粉砕したスマホを眺めながら満足げに立ち上がり、レンガをすぐそばの花壇へ戻す。
「町をまもったモン」
なにを狙ってか、そんな宣言をはじきだす。
そこへの指摘は捨ておき、あらためて「ラナさん、つよかったんだね」といった。さらに「どれくらいつよいの」とたずねてみる。
「そうだね。迫りくるゾンビたちから、単騎で二時間はこの町を守れるくらいかな」
「んー、自前の基礎的知識のはなしだけど、ゾンビひとりあたりの戦闘力がよくわかってないからなあ」
考えてもわからなそうなので、ラナさんの数値的な強さを知ることは断念した。
「サカナくん、あと四人だ」ラナさんは自分のペースくずさない。「予想より、早々とクリアできそうなだね」
「うん、インチキしているからね、ぞんぶんに。たっぷりと」
「罪悪感をもったらおしまいだよ、サカナくん。だめだめ」
顏を左右に振ってみせる。
あいかわらず、まるい目を見ていると、ラナさんはこちらに預けていたスケッチブックを掴んで、すっと、引き戻す。
「じゃ、引き続き、よろしくね。また、連絡する」
「連絡の手段ってのは、またそのスケッチブックなんだろうね、おそらく」
「これなら通信履歴も残らないしね」
と、いって、ラナさんは長い髪と、長いスカートの裾を揺らし、歩いて近くの家の方へいってしまった。角を曲がるとき、手をあげてみせてくれる。
そして、また、ぽつん、と、ひとりにされる。サバゲーのなかへ独り取り残される。
で、さあ、どうしよう。ひとまず、この先の振舞いを考えてみる。
残る敵はあと四人。ええっと、誰だったろうか。サスマタを抱きしめながら、自己紹介のことを思い出す。
キキさん、カーブさんは倒した。それから笹崎さんも倒した。
たしか、自己紹介のとき、アケビさんという二十歳ぐらいの男のひとがいた。
それからチャンキヨという三十歳ぐらいの男のひと。
キシさんという女性もいた。あと、ボーさんという身体の細いひと。
この四人だ。参加者は自分をふくめて全員で八人だ。
この八人という数は、サバゲーとして多い数なのか。もちろん、サバゲーをやる場所の広さも適正な参加人数に関係あるだろうけど。この町の広さでやるのに、八人は多いのか、少ないのか。そのあたりのサバゲーの基準値になる知識がない。
あ、もしかして、この人数は人気がない感じの人数なのか。
いや、考えてもしかたない。いまは、ただ、いまを生きることに集中しよう。
終わってから、いろいろダメだったな、と思えばいいだけだ。ダメなサバゲーだったなと。
この町で育まれた、自前の精神が心を落ち着かせてゆく。
そのとき、ポケットのなかのスマホが動いた。取り出してみると、サバゲー用のアプリ画面が動いていた。
見ると生存している参加者数が残り四名になっていた。誰かが誰かを仕留めたんだ。そう思って一秒後、今度は四名から三名になって、さらに一秒後には二名になった。
一挙に三人が減った。しかも、さっきみたいに、減ってまた、数が戻ったりもしない。
純粋に、参加者はあと二人になっていた。
なんだか気味が悪い減り方だった。そう感じて少しびびっていたとき、スマホに着信があった。
相手はシキさんからだった。
『ごめん。なんかだめだ、サカナくん』
いきなりダメだしから始まった。
『本物の記憶の殺し屋が来た、いますぐその町から逃げて』
つぎにそう告げられた。
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