第14話 相手が動かなくなる、その日まで

 金網の門があった。壁の高さにそろえて三メートルはある。

 その門があいているのが見えた。壁のなかは入る正規のルートはここらしい。門のそばには少しだけひらけた場所があり、そこの車やバイクが停まっていた。

 そして、黒いスーツ姿の大人たちが七人ほどいた。みんな大人だった。

 男のひともいるし、女のひともいる。とにかく、全員が決まった型の黒いスーツを着ていた。

 青空の下、談笑もしているし、タバコも吸っているし、スマホをいじっている。わかりやすく、それぞれの待ち時間を自由に過ごしている感じがした。

 みんな黒いスーツなのに、不思議とアウトドアの気配もある。ただ、同じ肩の黒いスーツを着ているのに、せいべつも歳もバラバラなせいか、組織の様相はなかった。

 笹崎さんみたいにニ十五、六歳ぐらいのひともいるし、三十歳くらいのひともいる。女のひとも、髪が黒くすごく長いひともいた。髪が青い女のひともいる。

 なんだか烏合の衆の感じがすごい。

「みんなー、もうあっちにひとりいたから連れてきたよ」

 笹崎さんは笑顔でみんなに手をふった。反応する人もいたし、しない人もいる。笹崎さんの後を追って歩き、やがて、合流した。

 けど、そのとき、ふと何かを察知して、そちらへ目を向けた。

 手前に経っていた家の壁に、身を隠すラナさんを発見した。みんなの角度からは完全に死角になっている。

 いつの間に壁のなかに入ったんだろうか。あのひとは、やっぱり、おばけじゃないか。

 ほのかに疑っていると、ラナさんはスケッチブックをめくった。

『いまだ、サカナくん。全員、かたい木の棒でなぐって倒せ』

 総合判断すると、殺人指令に近しいものを放って来ている。

 すると、ラナさんはスケッチブックを一枚めくった。

『延髄を棒でなぐるのよ、相手が動かなくなる、その日まで』

 そうやって、誰かを病院送りにせよ、とか人に指示を出すより、むしろ、そういうことを書き放つ、ラナさんが送られるべきふさわしい病院がこの世界にどこかにあるような気がする。

 そのときは、お見舞いに行くよ。心の中でメッセージを送った。おれにはそれくらいしかできない。

 そして、何事もなかったようにみんなの方へ顏を向ける。

「いやー、これで全員そろったー………・・ですかねえ?」

 笹崎さんは誰というわけでもなく、全体に声をかける。

 和気あいあいとまではゆかないまでも、みんな、顏を向けて、話はきいているふうだった。

「おっと、あと五分くらいで始まりですかねえ。晴れて、ね、よかったですねえ、あー、初参加の方もいますよね、ええっと、あ、わざわざ手をあげていただいて、はは、いやいや、べつにわたし、業者のにんげんじゃないですよ、同じ一般参加者で、はは」

 人当たり良くしゃべる。笹崎さんには、一見さんでも入っても大丈夫そうな店に似た安心感があった。

 このサバゲー仕掛け、開催しているのはシキさんだ。ただ、あのひとはいま、コンビニで働いている。他に、スタッフみたいな人がいないかと見回したけど、それっぽい姿のひとはみつけられなかった。みんな黒いスーツを着ている。

「主催のひとは誰なんですか」

 わかっていて笹崎さんにきいてみた。

 ただ、きいた後で、主催のにんげんも知らずに、どうしてこのサバゲーに参加しているんだと、質問され返される可能性を心配した。

 けれど、それはなかった。

「え、いやー、主催者はいつもこないよ」

 笹崎さんからはそういう答えを返される。

「このゲームを開催しているひとは、いつも日時と会場と、ルールを用意するだけ。わたしも会ったことがないですよね、じつは」

 いって、はは、とまた笑った。とにかく、笑顔を展開することが自然にできている。

「でも、参加するのはみんなイイ大人だしね。なんとかなるんですよ。毎回毎回、集まったみんなで仲良くね。いや、参加人数が多ければ、むずかしいかもしれませんけどね、だいだい、いつも八人ぐらいだから、なんというか、それぞれのわずかばかりのボランティア精神と、ささやかな協調性を持ち合えば、うまくやってけるもんですよ。サバゲーは」

 ほがらかにそう教えてくれる。

 はたできいていた他の人たちも、同意のようで、ほがからな表情で、うんうんとうなずいていた。

 そうか、そういうものなのかと思い「なるほど」と、うなずいてしまった。

 ラナさんはこの人たちを棍棒で叩けと指示していたのか。

 どうしたもんだろう。

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