第13話 今日は晴れてよかった

 異能力設定サバイバルゲーム。

 シキさんはそういっていた。設定は『記憶の殺し屋』

 参加者はすべて記憶の殺し屋である。そして、記憶の殺し屋はもはや、この世界に独りしか存在がゆるされない。ゆえに、最後のひとりになるまで記憶を殺し合う。

 では、それをどう、ゲームとしてやろういうのか。すごく気にはなっていた。

 もちろん、現代人だし、ある程度、いやいまならこんな感じでやるのかという予想はしていた。そして、シキさんから説明されたかぎり、その予想はほとんど合っていた。

 やっぱり、スマホを使う。位置情報サービスも使う。

 まずは事前に専用のアプリをダウンロードしておく。知らなかったけど、こういう特殊なサバゲー専用のアプリあった。やりたい内容のサバゲー用の異能力の設定を変えられる。

 今回は、ようするに、鬼ごっこみたいなことをするだけだった。

 記憶の殺し屋は相手の首の後ろを三秒以上触れれば記憶がひとつ消せる。そういう設定だった。

 つまり、アプリを動かしつつタッチ鬼をする。同じアプリを入れた人同時が、どっちかが相手の首筋へ三秒以上タッチすれば勝ちになる。

 ただ、アプリでどうやって相手の首筋をタッチしたか判定するのかは気になった。こういう、あたり判定をしくじりと、人はもめる。そこはどうなんだろう、位置情報をうまく使うんだろうか。

 その答えはわからない。

 未知だった。

 未知のまま、いま、未知の人のあとをついて歩いてる。

 見知らぬ大人について歩く。扶養家族の立場にいる、にんげんにとっては、これはかなりの冒険に思えた。

「見たことない顔だよね」

 世間話をしかけてきた。こちらの異質な緊張を察知したわけではなさそうだった。

「なに、参加するのは今日がはじめてなんですか」

「ええっと………はい」見知らぬ大人と話す、その状況自体に、こわばってしまった。あげく誤魔化し、うまくやろうとして「新品です」と、よくわからないことを口走っていた。

 親、先生とはちがい、近しくない大人との会話のやり方がわからない。

 いずれのしくりじりは必然だった。

 ただ幸い、相手にはよくきこえなかったらしい。男のひとはそのまましゃべりつづけた。

「今日は晴れてよかったですねえ」他愛のないことをいう。「まえは曇りだったもんなあ」と、間をうめるようにそういった。

「あの………もう何回か、参加を?」

 いちおう、丁寧な言葉づかいを意識して放った問いかけ文が、それだった。

「え、ああ、はい、わたしはそのー、今回で三回目かな」

 ほがらかに答えてくれる。

「サバゲーって、三回続けて参加する。だんだんその面白さとか、味わいがわかるって教えてもらったんで。まあ、バカ正直に、三回目。いや、でもね、三回出るまでもなく、たのしんでますよ、ふふ」

「そんなものでしょうか」

「おっと、そういえば、お名前はまだうかがってませんでしたね。っと、相手の名前を聞く前に、自分が名乗るのが礼儀でしたね、わたしは笹崎と申します。そちらさんは」

「ええっとあの………サカ」

 サカナメ、と本名をいいかけて、ブレーキをかける。

 けれど、とっさにかわりの偽名も思いつかず「サカ、サカー………」と、呪文のようにサカサカいってしまった。

「ああ、サカサカさんというですね」

 そして、相手のカン違いで救済される。「ええ、まあ」といってうなずいておく。

「そうですか、サカサカさん。あれ、たぶん、まだお若いですよね、学生さんですか?」

「あの」

 気分を害さないかな、と心配つつ、笹崎さんから質問をつぶすようなタイミングで逆に声を放った。

「いつもこんな感じなんでしょうか」

「ん、いつもこんな感じって?」

「サバゲーの設定異能力、ぶぶん」

「ああ、記憶の殺し屋設定? ああ、うん、そうですねえ、ここでは毎回その設定みたいですね。おなじですよ。他の設定でやることって、あるのかな? んー、わたしが参加するといつもこれなので、記憶の殺し屋」

「でも、それをやってる場所、前はここじゃなかったとききました」

「あー、はいはい、そうそうそう、まえの二回はね、もっと山の奥の廃墟でしたねえ、村のあとみたいな場所でした。ただ今回は、ここでやるそうで」

 言いながら、笹崎さんは壁のなかの小さな町を見た。

「しかし、すごいですよね、ここ。なんかアメリカの町みたい。ああ、もしかしてドラマの撮影用とかな? そういう場所なんじゃなかって、さっき、みんなで話しているときに話題になって。検索しても出ててこないんですよね、まだ出来て新しい場所なんですかね」

「あの、そういえば、どうして前回と大会の場所がちがってるのか、理由、知ってたりしますか」

「え? さー なんででしょうねー、んー………あ、でもでも、まー、ここでやれるのは最高だと思いませんか」

「ドキドキしてます」

 笑顔で問われても、そう答えるしかなかった。他に手はない気分だった。

 それから「今日、この町はこれから戦場と化すんですね」といっておいた。

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