第3話 先祖が魚みたいな目をしてたんだと思う
「あれま」
と、いったのはこっちだった。
お菓子売り場の棚でしゃがみこんでいるのをみつけた
彼女の方は、しばらく淡々とした表情でこっちを見たあとで「光りあれ」といった。
こっちもこっちでいろいろ考えてから「ずっときみに会いたかった」と告げた。
「それならなら願いが叶ったね、いま。なう」
彼女はそのまま淡々と応じる。
そして、今朝のことを思い出す。自転車を爆破処理された。生々しい記憶だった。そのときの爆発で、自転車は壁を越えていった。
爆発して、自転車が吹き飛んだとき、彼女はいった。逃げて、と。
だから、逃げた。
走って逃げて、家へ戻った。そして、午後になり、コンビニへやってきて、いまここに彼女との再会を果たす。
「手前の自転車はアレからどうなっただい」
「うん、だいじょうぶだよ。なんとか、うちの親たちにはバレずに処理しといた」
すごく、やりきった感じの表情でそれを伝えてくる。
でも、与えてほしい情報とは、毛色がちがったので「そうか」と、一度、おおざっぱに受け取った後、また少し考えた。考えた末に「自転車が爆破処理されたせいで、午後からは自身の脚力で移動する生活なんだ」と返す。
「あー」と、彼女はいって「うん」と、ただ、うなずいてきた。
「それに、自転車が吹き飛ばされたことは、うちの親に話しあぐねているよ。なんというか、ステータス的には、自転車をなくしたというべきか、自転車が原型をなくしたというべきか」
「どっちもカテゴリ的には消失だといえるね」
彼女は言いながら棚から棒つきチョコレートを手にとる。妙のきれいな爪をしていた。彼女が手に取ったチョコレートは幼児向けテレビアニメの人気キャラクターのカタチをしていた。デザインにはいくつか種類もあり、彼女は気に入った絵のチョコレートをみつけたらしく、口もとにはやや笑みがある。
なんら変わったことのない挙動なのに、なぜかずっと見ていられる、と思いながら訊ねる。
「きみの名前はなんていうの」
「え? あー、しずおかだよ、シズオカ、静丘ラナってんだわ」チョコの棒を器用にくるくる回しながらいう。「なんかご当地タレント感が出ててイイでしょ」
「その問いかけに対しての正解のコメントがみつからない」
「なら、きみはどうだ」と、彼女、ラナさんは立ち上がってそう聞いた。「きみの名前はどんなあんばいだい」と、質問した。
「さかなめ」
「サカナメ?」
「うん、『魚』って漢字に」なんとなく空中に魚の輪郭を描いた。それからじぶんの目を指差し「『目』で、魚目」といった。
「さかなめ」
彼女が名前を呼んだ。
「きっと」そこへ自ら伝えておく。「先祖が魚みたいな目をしてたんだと思う、だって鏡でじぶんの顏見ると、先祖を感じるもの」
すると、彼女はじっと目を見てきた。表情こそあいかわず淡々としているけど、無い血の秘密を暴かんとする意思もみえる。
それから、息を吐くつき、かすかに笑った。
「わたし、魚好きだよ」
そう言い放つ。なにげなく、あっさり。照れも演技もなく。
言われてしばらく、かたまってしまった。
「まさかのドキっとさせる攻撃を繰り出してきたね」
「おーよ、あわよくば心臓とめてやろうと思って。あ、でも、だいじょうぶだよ、もし人体のマジな物理的なハートがとまっても、すぐ蘇生させてあげる。やり方は教えてもらったから」
「それ、れいのゾンビ方面を気にしてるという、きみの親から教わったってことかい」
「気をつかってんだか、つかってなんんだか不明な問いかけのしかただね」
ラナさんはそう述べて小さく空鼻をすすった。
「話題を復元させるとだね」そう前置きしてから話を戻す。「まだ、自転車を失ったことをうちの両親に話せずにいる」
「それさ、家に我が子の自転車ない時点で、サカナくんの両親も察知してたりしないの。ややん? おっと、我が愚息のチャリが自転車おきばにないぞ、っとか、なんないもんかね」
「気づかないんだもの、うちの親」
「おおらかなんだね、世界の変化に」
いい意味か、わるい意味か不明だが、とにかく彼女はそういった。
「それでもいずれはうちの親にバレる。いつか、ある日、町なかを生足で走って移動するおれの姿を目撃したりなんかして、バレる」
「でも、笑顔で走ってばバレないんじゃないなおの、百点満点の笑顔で、白い歯をみせがら」
「笑顔で走り続けられるほど上質な呼吸器機能は搭載されてないんだ、この身体には」
「ぬるい体力なのね。まあ、がんばれないものは無理か」
未支払いまえのチョコレート棒をかるく振りながらいう。
「で、ここからはお願いなんだ」と、おれは話しを進めた。「壁の向こうに入った自転車を回収したいんだ」
「ああ、きみの、あの自転車ねー…………あの不幸な事件のせいで、まるでー、一回、巨大な怪物の口のなかで噛まれて吐き出されたみたいになってる、あの自転車か」
「いや、その状態をおれは見てないけどね」
「ごめん、すまん。あのときは親がいたから、壁のなかに入れるワケにはいかなかったの」
そのラナさん謝罪は表情から本心から見えた。自由に飄々と生きているように見える彼女にも、制限があるだ、と感じた瞬間だった。
それからラナさんは続けた。「それにさ、あのときは手榴弾をつかったことをバレないように誤魔化すことで手いっぱいだったし」
「それは手いっぱいだろうね。だって、手榴弾だもの」
「でも、おかげさんでバレずにすんだよ」
「バレないように出来たのか?」
どうやって。
そのあたりをくわしく聞いてみたくもある。すると、ラナさんがいった。「ここで話してても店になんだから、ちょっと表でて話ししようや」
彼女は店側への配慮したのか場所の移動を提案してきた。
それはいっけん、ケンカするために外出ろ的なセリフにもきこえなくもない。
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