マルケスのオークション
銃声が鳴り響いたところ。
それは日本のとある工場の廃墟だった。
銃口から煙の立つ9ミリオートの銃口は浜城優太の手刀で逸らされていた。
次の瞬間、銃を持つ手首を曲げられ銃口が持ち主へ向けられ同時に弾倉がストンと落ちる。
「ぐあっ!」
すかさず銃のスライドを引き排莢口から最後の銃弾が飛び出した同時に銃の持ち主の体は宙を回転し地面に叩きつけられた。
優太は投げ技の残心をとっている。
「リカルド!」
椅子に縛られた女が叫んだ。
背後からマシンガンが乱射された。
優太は片手で側転し連射される銃弾をかわした。
さらに跳躍して空中で3回体を捻りながら優太は銃を連射した。
四方にいた敵は全員その銃弾に倒れた。
優太は着地するとすぐに縛られた女の縄をほどき、女は優太に抱き着いた。
「やっと会えたね…」
「もう、バカ…」
抱き合う二人…
その抱き合う二人を、カメラと大勢のスタッフ達が囲んでいた。
「カットォー!」
監督の一言でスタッフ達が動く。
メイクの女性スタッフがリカルド役の優太に近寄っていき、髪型を直す。
優太は今、来年公開される映画「クレイジートリガー」の撮影中だった。
助監督が近寄ってきた。
「え~っと、この後なんですけど予定変更して、この間撮りこぼした佐藤さんのシ
ーンをやりますので、浜城さんは今日はもうオッケーです」
「あ、そうすか」
「じゃ、私もないんですか?」
理沙が寄ってきたので、助監督が香盤表を見ながら答える。
「え~、そうですね。本日、水木さんもないですね」
「わかりました~」
優太と理沙は、控室に戻った。
俺は着替えを終え、まだ残っているケータリングのテーブルでコーヒーを飲んでいると隣に私服に着替えた水木理沙がやってきて、自分のコーヒーを淹れた。
「おつかれさまで~す」
「おつかれさまです」
「今日の撮影すごかったね。疲れてないの?」
「ああいうときアドレナリンが出てるから」
「へえ。ところで優太くんてどこのハーフなの?」
「イタリアと日本」
「そうなんだ」
「正確にはクオーターだけど」
「へえ。わたし昔外人ともつきあったことあるけど、ハーフはないかも」
「…そうなんだ」
「いろんな人とつきあったよ。優太くんもいろんな人とつきあったほうがいいよ」
「あ、そう?」
「わたしもう当分出番がこないからしばらく会えないけど、連絡先交換しとく?」
「ああ、ぜんぜん」そういってスマホを取り出した。
理沙も自分のスマホを優太のスマホに近づける。
そのとき肩を優太の腕に当てた。
女のほうから連絡先の交換を言ってきたり肩を当ててくるのは、当然「連絡しなさいよ」くらいの意味がある…ハーフの血がそう言ってるようだった。
この時だった。
撮影中、ずっと他愛もない話をしてきた理沙が俺を人生の目的に近づけるような話をした。
「そうそう。わたしCM決まったの」
「マジで?いいなぁ…」
「それがさ。なんか事務所の偉い人にオークションに連れてってもらったらさ。代
理店のCM担当の人に紹介されてもうトントン拍子って感じで決ったの」
「オークション?」
「なんか絵とかみんな買ってたよ、セレブの人達が」
「セレブのオークションなんだ」
「マイケル…?マイケス?とかって人が主催なんだって」
「マルケス!」
優太の全身に雷が走った。
マルケス・ヴァルフィエルノ…?
優太は高鳴る気持ちを抑えた。
「でも、タレントとか局の偉い人達も来てたんだって」
「…マジで?スゴいなそのオークション。俺も呼んでよ」
「じゃ、連絡して」
「わかった。連絡する」
この時、優太は空が動くくらいの何かを感じた。
変化だ。何かが大きく変化する予兆。しかし…
「うちの事務所に、そんな招待状は来ないな。たぶん…」
理沙が参加したオークションはおそらくマルケスのスキャンダルオークション。
彼女が見た絵というのはおそらく盗まれた、または歴史から消えた世界中が探している貴重な絵画だろう。
マルケスはそれらを探し出し、世界中の財閥に売りつけるという初代のマルケスがモナ・リザを盗ませて財閥に贋作を売りつけていたのと同じようなことをしている。
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