真夏の雪だるま(その8)

「たしか巣鴨の賭場に出入りしていたはず」

と得三がいうので、巣鴨周辺を探ってみたが、そこいらの賭場はとっくになくなっていた。

奉行所をたずねて、

「賭場に詳しいご同輩におたずねいただきたい」

と頼むと、定町廻り同心の岡埜吉衛門は露骨に嫌な顔をした。

というのも、奉行所は火盗とはいつも縄張り争いをして、目の敵にしていたからだ。

岡埜は、日ごろ目をかけている浮多郎が、その先手組の御用も勤めるのに不快の念を抱いていた。


粘った浮多郎は、なんとか城北の賭場が開帳される十数ケ所を聞き出し、その夜から下っ匹の与太を連れて夜の町を探って回った。

三日ほどかけて数ヶ所回ったあと、千住宿の先の廃寺で夜な夜なひとが集まっているという噂を聞きつけた。

翌日の暑い昼下がり、だらだらと汗を流して、その廃寺の周辺の聞き込みをした。

真源寺という元は真言宗の寺だったのが、今は廃寺となっているはずだが、頭を丸めた住職が下男とともに住んでいるという。

夜な夜な夜鷹のような女も現れるそうだ。


そのまま張り込んでいると、日暮れとともに、三々五々ひとが集まって来た。

廃寺の隣の小高い丘の中腹の祠の松の木に登って寺の中を覗き見た。

連夜の蒸し風呂のような暑さで、破れ障子戸を開け放っていて、本堂手前の座敷は丸見えだ。

ふるまい酒が供されて、袈裟を着た住職が、あちこち動いて酒を注いで回る。

どうにも、近所の檀家の集まりにしか見えない。

やがて日がとっぷりと暮れると、めいめいが酒席を立って本堂へぞろぞろと入っていった。

本堂の障子戸はさすがに閉じているので、中の様子は分からない。

松の木から降りて、今度は崩れた土塀の割れ目から本堂をうかがった。

本堂の軒下に潜りこもうとしたが、見張りの若い衆が門の前に立っているのでうかつに近寄れない。

そのまま半刻(1時間)ほど経った。

老人が、なけなしの金をすったのか、背を丸めて門から小走りに出て来た。

あとを与太にまかせて、老人のあとを追った。

千住宿の灯りが見える辺りで、声をかけた。

老人は死ぬほど驚いたようだが、

「御用の筋でおうかがいしたい」

と十手の柄を懐からチラと見せると、さらに驚いた。

小粒をその皺だらけの手に握らせ、

「賭博のことではありません」

そういって安心させ、寺の中の様子をたずねた。

千住宿のはずれに住む隠居だという老人は、掌の小粒を確かめ、

「いかさまです」

と怒りをあらわにした。

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