真夏の雪だるま(その2)
真夏の雪景色が片付けられた日の午後。
京町二丁目の栄屋の振袖新造の吉乃の行方が分からなくなった。
八ツ(午前二時)の大引けの拍子木とともに階下に降り、時札を掛け替えてから大部屋のじぶんの寝床に入ったところまでは確認できている。
女郎が起き出すのは、四ツ(午前十時)ごろだ。
それから入浴、朝食、身支度をして九ツ(正午)からの昼見世にそなえる。
だが、吉乃の姿が見当たらないので、ちょっとした騒ぎになった。
楼の内の布団部屋や湯殿や物置、すぐ近くの九郎助稲荷や羅生門河岸辺りも見て回ったが、見つからない。
さらわれたか失踪したと見た楼主は、四郎兵衛会所に届け出た。
吉原唯一の出入り口の大門の横の面番所が、女郎が抜け出すのを見落とすことなどなかった。
各楼の若い衆を動員して、丸一日かけて吉原中を捜索したが見つからない。
これは何らかの方法で吉原の外へ出たにちがいないと考え、まず吉乃についた最後の客を疑った。
八ツの大引けの拍子木の音とともに帰ったのは、日本橋の布団屋の若旦那の才太郎と分かった。
「それっ」
と、亡八とも呼ばれる吉原の用心棒たちを日本橋へ送った。
用心棒とはいっても、吉原内の喧嘩や盗みや客とのゴタゴタをさばくゴロツキのようなものだ。
優男の才太郎だが、知らぬ存ぜぬの一点張りで、血相を変えて亡八どもといい合った。
商売そっちのけで、亡八どもは、店や二階の丁稚たちの大部屋から蔵の隅々まで、挙句は隠居した先代の霊厳島の屋敷まで探し回ったが、吉乃は見つからない。
吉乃の馴染み客を虱潰しに調べて回る一方で、吉乃の里の宇都宮の在へ捜索隊を派遣することになった。
思い川に掛かる泪橋たもとで小間物屋を営む政五郎のところへ、顔馴染の楼主がやって来た。
「どうだろう、跡継ぎの浮多郎さんに、亡八どもといっしょに宇都宮に行ってもらう訳にはいかんかね」
金子ははずむという。
政五郎が浮多郎を呼んで話をすると、
「宇都宮行きはともかく、あの雪だるまを引き取った植木屋とやらを洗ってみてはどうです。栄屋の吉乃とかいう振袖新造に、客として登楼したかも調べてください」
役者のような男っぷりの浮多郎は、そういった。
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