真夏の雪だるま~寛政捕物夜話14~
藤英二
真夏の雪だるま(その1)
大門をくぐると目の前に広がるのが、仲の町の大通り。
大通りとはいっても、両側には引手茶屋が軒を並べ、夜ごと花魁道中が繰り広げられる吉原の大広場といってもいい。
毎年の恒例行事のひとつとして、三月朔日には桜を植えて、ここで花見ができた。
折からの猛暑で客が途絶えたので、大門横の四郎兵衛会所に楼主が集まり、何か客寄せの見せ物をする話になった。
そこで、知恵者が
「暑気払いに真夏の雪見をやろう」
などといい出した。
大勢の大工と植木職人が、仲の町のど真ん中に大木を何本も運んできて真綿で飾り、根元には糯米と片栗粉を敷き詰め、一夜城もかくやとばかりに、たったひと晩で雪景色を作った。
植木職人の若頭が、竹で丸く骨組みを作った上から白い紙を幾層にも重ねて塗ってはりぼてにし、眉と目と口は炭を薄く切って糊で張りつけ、雪だるまを作った。
これを、大門寄りの大木の下に目立つように置いたので、これにはさすがの吉原雀も度肝を抜かれた。
それを口実に、各楼閣は馴染み客を招き寄せて雪見酒をふるまった。
馴染み客は、太夫に祝儀を持ってやって来ざるをえなかった。
この催しは、客にも楼にも好評のうちに終わった。
大工と植木職人が後片付けに入り、真夏の雪景色はきれいさっぱりなくなったが、話はそこで終わらなかった。
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