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午後八時頃、天峰風姫は自室で、タブレットのディスプレイを必死に眺めていた。
その画面に映し出されているのは、≪勇者≫の条文……≪勇者≫における信条を書き連ねた、いわば≪勇者≫の心得だ。彼女はそれを通して、今日通陽から言われた言葉を反芻する。
……大多数を守ること……。
一〇〇や二〇〇が大多数ではない……。その事実と相対し、改めて読み直しているのだ。
区切りついたところで、ディスプレイから目を離して、白い机の上に立て掛けてあるホロフレームを眺める。そこには、手のひらサイズの神谷通陽が笑顔を浮かべている立体映像が映し出されているが、彼がこのような顔をしない人であるということは、今日で十分わかった。
と、そこで入室許可を求めるコールが、手元の端末から鳴る。
風姫は慌てて、部屋の中にいる神谷通陽の像を消したあとに、素早く了承の意を入力すると、
「かーざーめちゃーん?」姉が少し甘えるような声とともに入ってきた。
「どうかしたのですか、姉さん」
「ちょっとお願いがあるんだけどいいかしら?」
「姉さんが、私にですか?」
「うんうん。ちょっとね、調べたいデータがあるんだけれど」
そうして、口にされたデータについて、風姫が一瞬疑問符を浮かべた。
それを知っていったい何になるのだろう? そう聞き返そうとしたが、いつもにこにこしている姉が、そのときはかなり真剣な目の色をしていることに気づく。
「……これで終わりましたよ、姉さん」
タブレットを操作して、彼女の端末へとのデータ送信を済ます。
「あ、送ってくれたの? ありがとう」
「しかし、このデータがいったいなにに使えると――」
「それは内緒。おやすみ、風姫ちゃん」
生まれてからずっと香珠妃の妹でいつづけているが、時折彼女の言動については理解の範疇を超すことが度々あった。今回もそういうことの一つなのだろう。
だが、この一連のやりとりのせいで、自分の尊敬する≪勇者≫、神谷通陽を追い詰められることになるとは予想もしていなかった。
GFQ~ガール・フレンド・クエスト~ 桜川玲音 @LeonOkawa
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