トーキング・ボールペン

@isa00

トーキング・ボールペン

 カチャリ。カチャ、カチャ。


 ある男の子の部屋にある学習机の上で、夜な夜な、仁義なき戦いが繰り広げられていた。


 「なぁ。おっさん、いつまであの子の筆箱の中にいるんだよ!」


 「お前こそ筆箱の中に入ってまだ一回も使われてないじゃろ!」


 「お前がいつまでも筆箱の中に入っとるからだろ!さっさとゴミ箱にいけよ!」


 「何? まだわしのインクは半分も残ってるんじゃ!」


 「お前のその頭に付いているキャップ。一々取り外して書くのが面倒くさくなったんだろう。邪魔なんだよ!」


 「なんだと!」


 「比べて俺はお尻を一発押してもらえりゃ、ペン先が飛び出てすぐ書けるからな。楽だし時短にもなる。まさに学生の力となるボールペンさ! 引導を渡しな、おっさん、時代はノック式ボールペンだ!」


 「ふっふっふ。まだまだ尻の青いこどもだな……」


 「なんだと!?」


 「わしに付いてるこのキャップの便利さを知らないようだな。若造、世界をもっと広く見なさい」


 「キャップに使い道なんかあるわけねぇさ!」


 「キャップが付いているとな、こうなるのさ」


 横にあるノートに近づき、自分の体を紙の間に滑り込ませた。


 「ほらな。こうやって物に挟まれば持ち歩きに便利だし、わざわざ筆箱を漁る必要も、筆箱も必要ない。時間を短縮できるし楽だろ?」


 キャップ付きボールペンは得意げな顔をしてノック式を見下ろしている。ノック式は悔しそうな顔をしているが、そのとき、ハッと思い出したようにこう言った。


 「だったら、筆箱の中にいる必要がないじゃないか。密になるから出て行けよ」


 するとキャップ式は、とても寂しそうな顔をして言った。


 「わしはな、あの子に選ばれたんじゃ。文房具屋で可愛いと言って数多くの色の中からわしの色を、わしと同じ色数十本の中からわしを、選んでくれたんじゃ。あのときの目の輝きは忘れられん。その瞬間からわしはあの子を親のような目線で筆箱の中から見守ってきた。だけど、筆箱の中に新しい君たちが入ってきて、わしが使われることは少なくなっている。だけど、わしは見守りたいんじゃ。この先一回も使われなくてもいいから、筆箱の中からそっと応援したいんじゃ……」


 ノック式はキャップ式に強く当たり暴言を吐いてしまったことを後悔した。ノック式はキャップ式よりも後に購入され、筆箱の中に入った。それを見ていたキャップ式の気持ちを考えず早く出て行けと言ってしまった。


 「おじさん。ごめんよ、俺、おじさんの気持ち知らずにあんなこと言って……」


 「謝る必要はない。わしも大人げなかった。申し訳ない。わしも君の立場だったら邪魔だと思う。これだけは覚えていてほしい。使ってもらうことも我々は嬉しいことだが、使われなくても、あの子に必要とされたから筆箱の中に入ってる。そのことはボールペンの誇りであることを忘れてはいけないよ」


 カーテンの隙間から光が差し込む。外で鳥が鳴いている。もうすぐ朝だ。


 「今日も一日が始まる。あの子のためにも陰ながら支えようじゃないか」


 「……はい」


 カチャリ。カチャカチャ。


 二本のボールペンは男の子の筆箱に飛び入る。今日も男の子のそばで見守っている。

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