玲桜奈編 最終話 プロポーズ

 あれからさらに時は過ぎ――俺は無事に生徒会長に就任した。新たなメンバーの中には、俺が一年の時に庶務の席を争った人もいて、ちょっと驚いた。


 会長の仕事は、激務どころの騒ぎじゃなかった。庶務の時ですら忙しすぎてヤバいと思っていたのに、会長の仕事は責任もあるし、他のメンバーにも指示を出したりと、やる事が多すぎた。


 何度も失敗した。間違いを犯した。それくらい、俺は玲桜奈さんに比べるとダメダメな生徒会長だった。


 しかし、その度に反省し、ソフィアやゆい、新生徒会の仲間に助けてもらいながら、なんとか毎日を過ごしていた。


 一方の玲桜奈さんは、一流の国立の大学に入学し、西園寺グループの社長になるための勉強をしているそうだ。


 あまり頻繁に連絡は取れてないし、デートも数カ月に一回しか出来ないけど、俺も玲桜奈さんもそれで良かった。会えないという事は、二人共頑張ってる証拠だって思うようにしたからだ。


 そんな激動の生徒会長の日々は、あっという間に終わりを告げた。がむしゃらだったけど、俺はなんとか生徒会長の任をやりきったんだ。


 結果的に、俺は玲桜奈さんに比べれば情けない生徒会長だったと思う。けど、頑張ったおかげか、学園の環境は更に良くなり、俺以外の男子生徒も入学してくれた。


 もちろん、燃えてしまった体育館も、新しいものが建った。色々と根回しが大変だったけど、完成した時は、とても感動したのを覚えている。


 こうして生徒会長の任を終え、学園も卒業した俺は、大学に進学して猛勉強を始めた。理由はもちろん、西園寺グループが経営する会社に入社するためだ。


 西園寺グループは有名な会社だけあってか、入社試験の倍率がとんでもなく高い。だから、たくさん勉強をした。それに、着きたい役職もあったから、その勉強もした。


 その努力は実り――俺は無事に西園寺グループの会社に入社する事が決まった。


 ちなみにソフィアは大学に卒業後、俺の家を出て、パン屋に就職してパンを作っている。料理が好きなソフィアにとって、パン作りはとても楽しいものだと笑顔で話していたのが印象的だ。


 ゆいは高校卒業後、イラストレーターの道を歩んだ。元々漫画が好きなゆいは、絵を描くのが上手らしく、その道に進みたかったそうだ。


 そして玲桜奈さんは、今では支部のトップを務める人間になった。このまま順調に実力をつければ、西園寺グループのトップになれるだろう。


「ふぅ、緊張するな……」


 西園寺グループの会社に入社してからしばらく経ったある日、俺は夜景の見える個室の高級レストランの椅子に座りながら、深呼吸をしていた。


 今日は久しぶりに玲桜奈さんとのデートだ。かれかれ何ヶ月ぶりだ……? 互いに忙しい身だからな……。


「すまない、遅れてしまった」

「玲桜奈さん。いえ、全然待ってませんよ」

「ふふっ、そんな気を使った事が言えるようになったんだな。君も社会人として成長してるな」


 冗談を言いながらクスクス笑う玲桜奈さんは、俺の対面に腰を下ろした。


 高校を卒業してからまだ数年しか経っていないのに、玲桜奈さんは物凄く大人びて見える。大人っぽいドレスを着てるからだろうか?


「君の噂は聞いているぞ。最近は実力をメキメキとつけてきたそうじゃないか」

「ありがとうございます。そのおかげか、最近異動命令が出たんですよ」


 運ばれてきた料理を食べながら、俺は近況を報告すると、玲桜奈さんは小さく首を縦に振りながら聞いてくれた。


「ほう、次はどこに行くんだ?」

「関東支部長の秘書です」

「ほう、関東支部――え、それって……」

「はい、玲桜奈さんの秘書です」


 出会った時から凛々しくてカッコいい玲桜奈さんにしては珍しく、本気で驚いたような顔をしている。


 まあ、移動先が恋人の所ですーなんて言われたら、普通驚くよな。俺が逆の立場だったとしても、驚くと思う。


「……なるほど、これは一本取られたな。近々今の秘書が退社するのは知っていたが、まさか後釜が君とは! いつのまに秘書の勉強をしていたんだ?」

「実は、大学時代から勉強してました。いずれ社長になる玲桜奈さんの隣に行くには、この道が良いって思って」

「そうだったのか。まったく、隠していたなんて意地が悪い。そんな事をする陽翔は嫌いだ」

「嫌われるのは困りますね」


 玲桜奈さんは、言葉では悪態をついていながらも、口角は上がってしまっている。頬もピクピクしてるところを見るに、なんとか笑ってしまうのを誤魔化しているようだ。


 相変わらず、この人は可愛いな。いくつになっても、この可愛さは変わらないだろう。


「ふぅ、とても良い食事だったな。お酒もおいしいせいで、少し飲み過ぎてしまった」

「大丈夫ですか? 前はウイスキーボンボン程度で泥酔してましたけど……」


 一通りの食事を終えた俺は、少し酔いで紅潮している玲桜奈さんを心配する。


 あの時のインパクトは凄かったな……今でも鮮明に思い出せる。


「さすがにあの時のような醜態は晒さないさ。付き合いでよく飲まされるから、耐性が出来てしまってね」

「ならよかったです」

「ふふっ……酔いつぶれたとしても、君が介抱してくれるだろうから、安心して飲めるよ」


 随分信頼してくれてるんだな、玲桜奈さんは。そう思うと、なんだか少し照れくさいけど、それ以上に嬉しくて……そして玲桜奈さんが愛しくなる。


 ……やっぱり俺、この人と……。


「さて、もう良い時間だし、そろそろ出ようか」

「あ、えっと……もう少しだけお時間もらえませんか?」

「構わないが……どうした?」

「大事な話があるんです」

「大事な話? 秘書の件か?」

「それ以上に大事な話です」


 真剣な表情で見つめると、玲桜奈さんも察したのか、とても真剣な表情で見つめ返してくれた。


 ……し、心臓が爆発しそうだ。でも……今日絶対に言うって決めてたんだ。さっきだって、やっぱり俺はって思ったじゃないか。


 大丈夫、大丈夫……ここまで来たら、後は一歩踏み出すだけだ。


「……これを」


 俺は手を……いや、体全部を震わせながら、胸の内ポケットから小さな箱を取り出すと、玲桜奈さんの前で開けてみせた。


「え、これって……指輪? もしかして……」

「はい。俺はあなたを愛しています。でも、あなたの伴侶になるなら、あなたの隣に立ち、支えられるほどの男になるまで、その資格はないと思ってました。それがようやく叶ったので……プロポーズさせてください。俺と……結婚してください」


 俺のプロポーズの言葉で驚いたのか、目を丸くしていた玲桜奈さんだったが、徐々に笑みへと変わっていった。


「は、ははっ……こ、これはまた一本取られたな……まさかプ、プロポーズを……されるなんて……」

「それくらい、俺は本気です。俺と一緒にずっと幸せになってください」

「まったく、君という男は……」


 目尻に溜まった、光り輝く宝石のような涙を拭いながら、玲桜奈さんは指輪の入った箱を受け取ってくれた。


「陽翔、つけてくれないか?」

「もちろんです」


 俺は玲桜奈さんの綺麗な手を取ると、左手の薬指にはめてあげた。


 うん、サイズはばっちりだ。事前に調べておいて正解だった。調べ方? それは内緒で……!


「陽翔、本当に嬉しいよ。私は本当に幸せだ。そうだ、玲桜奈と呼んでくれないか?これからは夫婦になるのだからな」

「れ、玲桜奈……」

「はい、よくできました。ご褒美に……」


 ご褒美? って思った矢先、玲桜奈さん……いや、玲桜奈は俺に力強く抱きついてきた。それどころか、そのまま俺の唇に、自分の唇を重ねてきた。


「ちゅっ……」


 久々だったとはいえ、完全にスイッチが入ってしまった俺と玲桜奈さん……いや、玲桜奈はキスを繰り返し行う。互いのずっと貯めていた欲望が出ているからか、貪るような、深いキスだった。


「はぁ……腰が……」

「いいですよ、ここに座って」


 あまりに激しいキスのせいで、腰が砕けてしまった玲桜奈のために、椅子を用意したのだが、なんだかお気に召さないようだった。


「陽翔、そこに座るんだ」

「こうですか?」

「そこで私が乗る」

「え、ええ?」

「ちゃんと支えないと、私が落ちてしまうだろう」


 俺の上に乗ってきた玲桜奈は、満足そうに息を漏らした。


「おい陽翔、何か硬いのが当たってるぞ?」

「し、仕方ないじゃないですか! こんな魅力的な女性を前にしたら、誰だってこうなります!」

「ほう、なら陽翔は、私以外に魅力的な女がいたら、それでいいのかな?」

「それは討論になってませんよ。そもそもの前提として、俺の中にある恋人と伴侶のカテゴリーにいるのは、玲桜奈だけなんですから」


 そう言うと、玲桜奈は面白そうに、そして安心するようにクスクスと笑ってくれた。


 もうさ、なんていうか……一挙一動が可愛かったり美しかったり……目が離せないんだよ。それで見てると、その良さに改めて気づかされ、また恋に落ちてしまうんだ。


「相変わらず仕方のない男だな」

「面目ない……それでなんですけど、本当はこのまま解散なんですけど、実は明日までフリーでして」

「奇遇だな、私もフリーだ」

「それで、よければですけど……もう一杯、俺の部屋でどうですか? ソフィアが家を出たので、今一人ぼっちなんですよ」

「ああ、わかった。それじゃ、今日はゆっくりと……甘い夜を過ごそうじゃないか」


 玲桜奈は俺を引っ張りながら立ち上がると、嬉しそうに俺の腕に肩を回した。


 俺の腕には、当然玲桜奈の素肌やおっぱいが当たっている。緊張はするが、それよりも……恋人の温もりを感じられて、安心感を覚える。


 これからも、きっとこんな生活を続けるんだろう。忙しくて中々会えなかったけど、家で二人でのんびり過ごして……いつか子供も作って……幸せになりたいなぁ。


「玲桜奈」

「なんだ?」

「必ず幸せにするから」

「……ふっ、大きく出たな。私も、君を必ず幸せにするから」

「ありがとうございます。あなたとなら、どんな困難も乗り越えられると思います」

「当然だ。困難は全て乗り越え、飲み込み糧にして、私達は幸せになるのさ」


 やっぱりカッコいい玲桜奈とジッと見つめ合うと、間もなくどちらからともなくキスをした。


「もう、先ほどしただろう?」

「またしたくなっちゃって」

「まったく君という男は……これからも末永く……一緒にいよう」

「はい、もちろんです!」


 俺は三回目の誓いのキスをしてから、今度こそレストランを後にした。





 この世界に転生してから、ゆっくり休んだ日がなかったんじゃなかってくらいバタバタしていたなぁ。


 でも、引きこもりの俺にはいろいろ刺激的で、仲間もできて……最高な生活だった。あの輝かしい日々は、もう戻らないんだな……。


 でも今はそれ以上に幸せで、大切な人がいるから。


 玲桜奈。俺、ずっとずっと、じいさんになってあなたを愛します。


 だから、これからもずっと一緒に助け合って生きていきましょう!



――――――――――――――――――――

【あとがき】


 私の作品を手に取ってくださり、誠にありがとうございます。これにて陽翔と三人のヒロインの物語はおしまいです。


 最初から三人全員が幸せになる話が描きたくて、こういう形になりました。グダグダ長くて申し訳ない! 作者としましては、ヒロイン全員が幸せになる未来を描けて大変満足しております。


 皆様にお願いがございます。ぜひ☆やフォローを押して、作品の応援をしていただきたいのです。


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 ではまたどこかの作品で出会えることを祈ってます。

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