第11話 小さい

 結局、着替えを終えても同居人は帰ってこなかったから、しようと思っていた挨拶は後回しにして、寮を抜け出して少し機動鎧を見てこようかと思い立つ。

 抜け出すと言っても玄関から外に行くことになるので、寮の管理人に止められないかとびくびくし、玄関に行くと、管理人が夕食は十九時だと言うので、時計を持ってないんですけどどうすればいいですかねと訊くと、部屋の机の中に正確な懐中時計が入ってるはずだからそれを持っていけと言われた。

 一回自分の部屋に戻り、懐中時計を取って寮の外に出る。一日は二十四時間区切りで、定時法、時計の短針が二周回ると一日が終わるという元の世界と同じシステムで、今はまだ十六時なので、少なく見積もっても二時間は機動鎧を見れることになる。

 気が急くままに走り、すぐにもともと機動鎧が並べてあった場所まで来たが、そこにはもう機動鎧は置いてなくて、近くの、プレハブ二階建てくらいのボロいガレージの中、少しだけ開いた扉の隙間から、機動鎧のような影が見える。

 野外に置いてあるならいいが、わざわざ建物に入ってまで見るのはいかがなものかと思う気持ちと、近くで見たいという好奇心が葛藤を起こし、扉の前で右往左往していると、後ろから声をかけられ、振り向くと背の高い女性がいる。

 思わずイエス!マム!と言ってしまいそうなほど体格のいい女性だ。今の体では、軽く小突かれただけで僕の骨が折れるのではないだろうかと思うほどだ。

 女性が笑いながら僕の名前を訊くので、訓練生のコノハですと答える。続けて、このガレージの中を見たくてここにいると、理由も説明する。

 女性は快活に笑い、ちょうど機動鎧に乗ってる部隊の人間だから、好奇心旺盛な少年にアレが動くところを見せてあげるよと、ガレージを開けて中に入れてくれた。

 ガレージの中には六体の機動鎧と、それが装備するのだろう、大きい、全体が金属製の斧や鉄鞭、そして銃が置いてある。機動鎧は重苦しい金属の上に丁寧に塗られた緑色の塗料が映えて、戦場での姿とは全く違うような、整備後の美しさがある。形状も、重量級の装甲でゴテゴテに太った形で、僕の一番目か二番目くらいに好きなタイプだ。ただ、“小さい”。何より気になるのは、“小さい”。

 幼少期の、限られた記憶の中の一つ、ハルトマンアーマーを博物館で期間限定で展示しているのを見に行った時の、どうしようもなく、大きく、圧倒的で、それゆえに威厳のある、巨大な姿とは、その一点で大きく異なっていた。

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