第10話 寮
入隊式が終わり、式が始まる前からあらかじめグループでも作っていたのかきれいに数人ずつで固まってどこかに行く訓練生の集団を、僕は部屋の端から見送り、兵士は僕のことをとりあえず寮のところまで連れて行くのが仕事だと言って譲らないので、諦めて、ホールを出た道のさらに奥にある三階建てくらいの寮の建物に向かう。
寮の玄関に行くと名前と部屋の対応表が壁に貼ってあったので近寄り、僕の名前を探そうと一瞬思ったが、そういえば僕は名前が分からないんだった。
玄関の人混みを避けて立っていたさっきの兵士のもとに戻ると、ちょうどホールの方からも人が来ていて、僕のことを探しに来たらしい。
僕の名前を勝手に決めたというので、聞くと、「コノハ」だという。占いで前世の縁から決めたものだから響きがしっくり来なければ変えてもいいとも言われるが、言われてみるとどうも元の名前は確かに「コノハ」だったような気がしたので、ありがたくその名前を貰う。
僕の部屋は対応表には載っていないらしく、入ることになった部屋の番号もこの場で受け取る。二人部屋だから、同居人とうまくやってここの空気に慣れろと言われる。
玄関には人混みもなくなり、寮にはすぐに入れるようになったが、考えて見れば僕は未だに半袖半ズボンの粗雑な服を着ていて、しかもこの寮にいる誰より年も下だろうから、もしかするとあの馬車で運ばれていた子供の一人が逃げてきたのかと勘違いされるかもしれない。まああながち間違いでもないが。
と、いまだに僕の後ろにいた兵士に言うと、寮の部屋の中には替えの制服もあるからそれに着替えれば問題ないと言われる。
しかし伝えられた寮の部屋番号は明らかに三階の最奥あたりで、そこまでたどり着けなかったらどうするんだという言葉を飲み込んで、寮の中に入る。
何人か寮生とすれ違ったが、案外訝しがられることもなく、なんの障害もなく僕の部屋にたどり着いた。
部屋のもう一人はベッドに荷物を置いた跡はあったが居なかったので、空いているベッドを独占してクローゼットの一つから男子用の制服を出して着る。
制服は思ったとおり僕の体には合っていなくて袖や裾がぶかぶかだが、近くに貼ってあった合わない制服の調整方法の説明書を読むとなんとか丁度いいくらいになった。
訓練兵にはこの程度の装飾で十分だというように、縁取りもなにもない真っ黒の上着に、正中線に縦に四つ付いた何かのマーク入りの金ボタンと、左肩から足先まで、並べて二本、真っ直ぐ引かれた白い太線と細線。
小さな子どもが来ていること以外は、黒髪赤目と相まって、なかなか格好良く決まっていると、備え付けの姿見を見ながら思う。
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