第9話 機動鎧

 僕は兵士の方を見て、あのロボットは何かと訊く。

 兵士は無言で、そんなことはどうでもいいから早く歩けとでも言うように進行方向を指差すが、僕が執拗に訊くので折れて、簡単に説明してくれた。


「あれは『機動鎧』という、要はただの動く処刑具だ。罪人が乗って最前線で戦うためのものだから、お前のような正規兵が乗るものではない。」


 僕がいつ正規兵になっていたかは分からないが、あのかっこいい機体をどうしても近くで見たいとしつこく主張すると、後で見せてやるから今は早く歩いてくれと、許可のようなものを得た。

 ちなみにああいう濃い緑色は、元の世界ではハルトマンアーマーの陸戦用量産機、型式番号はどれも残念ながら思い出せないが、ベロニカシリーズでよく使われていた。

 僕が行くべき方向はどんどんと機動鎧から離れる方向で、少しでも機動鎧をよく見たいと進行方向から何十度も首を傾けて歩く僕のことを後ろを歩く兵士が呆れて見ているような気がした。

 そしてまるで体育館のように縦横に広い二階建ての建物が、進んでいる道の先に見えてくる。僕はすぐにそこにたどり着き、両開きの扉を開くと、中は元の世界でも見たことのないような広いホールになっていた。

 ホールにはぎっしりと今の僕より年上の少年少女が並び、最奥にあるステージの上には偉そうな白髭のお爺さんが立って、ちょうど何か話そうとしたところで扉が勢いよく開いたことに驚いたように、呆然としていた。

 ステージの脇から誰かが出てきて、事情を説明したようで、納得したように白髭が落ち着いて話し始めた。

 ここは何かの組織の軍の、訓練所の入隊式だったらしい。自らを所長と名乗った白髭の話は無限に長いが、何やら訓練生としての在り方や矜持について話しているらしい。なぜ僕がここに連れてこられたのか全く状況の理解できない僕は、後ろに立つ兵士に助けを求めるように目を向け、話に集中しろとでもいうようなジェスチャーをされた。

 後で自分の状況を訊きつつ、ついでに機動鎧の近くまで連れて行ってもらおうと、厳しそうな顔をしつつも何だかんだ押しに弱い兵士のことをちらと見つつ思う。

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