第6話 人攫い
目を開ければ、その場には粗雑な麻の服を着た男女何人かの子供が俯いて何をするでもなく座っている。また、床に倒れ込んでぴくりとも動かない少年少女もいる。この馬車の中に普通では入れるような人数とは思えない、二十人ほどの子供が馬車の床に敷き詰められていた。
僕の下を見れば、そこにも一人、おそらく僕が投げ込まれたときに下敷きになったのだろう華奢な少女が、抵抗するでもなく嗚咽を漏らしている。
僕が急いで少女の上から動かなければと立ち上がると、僕のことをじっと見ていた子どもたちが怯えたように後ずさる。馬車の不安定ななかでどうにか立ち上がり、すぐに空いたスペースに体を押し込むと、子ども達と自分の目線がちょうど同じくらいなことに気づく。
僕は高校生として決して身長が低くはない方だったはずだが、ここにいる少年少女はほんの十歳かそこらだろう。小さく痩せ細った体に付いた小さな子供特有の大きな頭のアンバランスさが、この世界の悲惨さを物語っているように見える。
いったい僕の姿はどうなっているのだろうと自分の手を見つめると、周りにいるみんなと同じくらい小さく、そしてみんなとは違ってしっかりと健康的な肉が付いていた。
幌を分厚く何枚も重ねてあるのか昼間にしては不自然なほど暗い馬車の中で、御者の肥った体の隙間から少しだけ光が漏れている。
僕はこのあとどうなるのだろうと想像してみても、脳内には悲惨な状況しか浮かばないので、この寒さで頭が働かなくなってきたこともあり、脳が自然に、その動きを鈍くしていく感じがする。
もしかするとこの世界の情報をこの子供たちから聞けるかもしれないと思い、一人の子供に声を掛けようと思うも、口が上手いように動かず、ただ、大きな「あ」という音だけが勢いよく口から出た。
御者が腰に付いた銃を引き抜き、一瞬だけ幌の中に目を向けて引き金を引く。銃弾は幌の奥の暗がりにいた誰かの頬を掠って外に抜けていった。
馬車の中に、血のように赤い一筋の光と、過呼吸じみた激しい呼吸音が一つ増えた。それ以外の変化は一切なく、僕の脳には銃を撃った瞬間の御者の紫色の目がこびりつく。
殺意などというものは全く感じられなかった。人殺しを躊躇しない人の目ではなく、ただ、ふと気まぐれに銃を撃ってみただけのように見えた。
僕らはもしかすると、人間として見られていないのだろうか。未来への想像は、恐怖によって加速し、僕の目に無数の絶望の未来の絵を写し出す。
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