第3話 殺人
強い太陽の光を浴びながら、僕は芝の上をしゃりしゃりと音を立てて進む。前を歩く紳士は、音も立てずに歩く。
広い庇の下に入り日陰の涼しさを楽しみながら、巨大な家の中に導かれ、二階に上がって豪奢な扉の部屋を六つ、通り過ぎたところで紳士が一つの扉の前に立ち止まり、慇懃な姿勢でそれを開くので、部屋を覗き込んで真正面の執務室に座る茶色に近い金髪の壮年の男に向き合いながら、おどおどと部屋の中に入る。
壮年の男は先程僕を二階から見つめていた美少年によく似た目をしていて、おそらく親子なのではないかと思う。
銀髪の紳士は男に何かしらを耳打ちし、男は頷くと僕を近くに寄せようと手招きする。
指示されるがままに近寄り、男が僕の目をその青い目で見つめながら、言葉を発するのを聞く。
「お前は誰だ。名前と所属を言え。」
僕の口はすらすらと動き、聞いたこともない自分の名前と、国名と、上司の名前を言う。
そして僕は、はっきりと自分の名前と、この世界の全貌と、上司の顔を思い出す。
僕の名はフソネッジ・ヴァジョク。あなたと同じエリタ祖国の中西部非正規軍所属、上司はキレンツ・ヴァジョクで、現在の階級は軍曹です。
男は満足気に頷くと銀髪の男に合図をして部屋の外に出し、執務机の引き出しを開けて何やら過度な装飾のついたナイフを机の上に置いた。
僕の手は慣れたようにナイフを左手で持ち、机から少しだけナイフを持ち上げた中途半端な位置で動きを止めた。
僕は何をしようとしている。
ナイフを持った手は、僕の首を抵抗なく通り過ぎる。そのためだけに切れ味を増したナイフなのだと僕は知っていた。
しかし僕の手は動かない。
男は不審そうな目で僕を見て、そして僕が自分の意思に反して、はっきりと言葉を発するのを聞く。
「聖句を。」
男は動揺していた。爽やかで清潔感のあった顔は、脂汗で汚く輝き、僕はあと何秒で、もう一つの使命を達成するのか。その秒数を冷静に正確に一つずつ引いていく。
七、六、五、
男への憎悪を増し、その感情の昂りで悲鳴を上げたくなった僕の口は、動かず、手だけが滑らかにナイフを垂直に突き上げ、男の顎、舌、そして鼻の骨を貫いて男を終わらせた。
あーあ。これで君は人殺しだ。そう脳の中で声が響く。
僕は冷静になった脳で、目の前で、その体温を赤い液体にのせて僕の腕に伝えてくる、白い
頭
を見て気を失った。
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