第56話



「ボックス!」



 林檎の合図と同時にフォルネウスが疾風しっぷうのごとく距離を縮めジャブのあらしを降らせる! 最初の三発はジャブだったがすぐに左右のフックで連打される!

 むちというよりそれはまるでへびのような動きだ! 私の顔面にまとを絞り集中的に攻撃してくる!


 私はダッキングしたままウィービングでわす! 身を丸くして最低限の動きでフォルネウスの強烈なパンチをしのぐ! 小さく小さく機敏きびんにいなす! 無駄な力を抜いてフットワークを使いこなす!



 フォルネウスのパンチがよく見える!


 一時的に痛みと恐怖が消えていた。視界がクリアになる! 付き纏う疲労感を振り払うように私は攻めに転じる!


 フォルネウスが少し大振りの左ストレートをぶつけてきた! これはフェイントだ。次に稲妻いなずまのような右ストレートがくると予測する!


 私はフォルネウスの左側に移動する! ギリギリまで上体をフォルネウスの前に残しておいて、フォルネウスが右拳からパンチを放つ直前に逃げるフリをする!


 私が一瞬消えたように感じたフォルネウスは慌てて身をひねる! ちょうど良い具合に私の右側がフォルネウスの死角になる!


 私は左でジャブを二回打つ! フォルネウスは左拳でパーリングしながら払う! フォルネウスは足を踏み込み半回転しながら右拳で再度ストレートを繰り出した!

 スレスレで流しながら私は右でクロスカウンターを振り下ろす!



 フォルネウスのあごを叩きつぶす! フォルネウスの身体がゆっくりと傾く! 深手を負ったフォルネウスの口から血がたらりと落ちる!

 その刹那に狙いを定め、全身でうねるように左右に激しく揺れながら連撃れんげきを打ち続ける!


 私のリズミカルな動きにフォルネウスが直ぐにタイミングを合わせてくる! ふらつきながらフォルネウスが左拳で威力が半減したスマッシュを投げてきた!

 私は易々やすやすけ、ついでにガラきのフォルネウスのボディに左ジャブをお見舞いする! 思いっ切りレバーブローを立て続けに放つ!



  ――――フォルネウスの空気が凍りつく!



 ブチ切れたフォルネウスからチョッピングライトが飛んでくる! それを読んでいた私はかさず右で伸び上がるような大砲たいほうのようなアッパーを打ち上げた!



 フォルネウスの重い巨体がキャンバスに落下する! フォルネウスがダウンした!



 レフェリーの林檎がカウントダウンをする。フォルネウスはひざまずくようなポーズで盛大に咳き込む。飛び散った血塗れのマウスピースを口に運ぶ。


 肩で荒い呼吸をしながらフォルネウスが起き上がる。時間はあと一分ある。

 フォルネウスから禍々まがまがしい殺気が冷気の矢となり私に降り注ぐ。


 しかし私もここで引くわけにはいかない。睨み殺すつもりでフォルネウスへ鋭い眼光を向ける。



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『私の辞書に不可能という文字はない!』 七海いのり @kuma20

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