落語 招き猫
紫 李鳥
落語 招き猫
えー、
えー? アヒルじゃごぜぇませんよ、ニヒルです。ま、似たり寄ったりではありますが。
何を隠そう、わたくしが
つまり、手っ取り早い話が、流暢はわたくしの弟子で、わたくしは流暢の師匠であります。ま、師匠だけに、
最近はわたくしより売れちまって、肩身の狭い思いをしてましたが、久しぶりにオファーがありまして、こうやって高座に上がることができました。サンキュ~♪
ここで小話を一つ。
「あそこに囲いが四つできたってな?」
「そうなのよ。ヘイヘイフォ~♪ヘイヘイフォ~♪」
ま、熟女とナイスミドルにしか分からない小話ではございますが。アイムソーリー、総理、総理、総理!
えー、本日の演目は、【招き猫】という、縁起のいいお話でして。
早いもんで、もう十二月も終わりですな。十二月(
「松ちゃん。どうでい、忘年会でもしねぇか? 二、三人連れてさ。一年の
……どうしよう。これじゃ、女房、子供に
松吉は、月が映る
ああ……、忘年会なんかに参加しねぇで真っ直ぐ帰ればよかった。
松吉は後悔しながら、はて、どうするかと思案橋。その時だ、
「にゃ~」
猫の鳴き声がした。振り向くと、招き猫のように右手を上げた三毛猫が松吉を見つめていた。
この寒空になんでこんな所にいるのかと首をかしげていると、手招きするかのようにその手を動かした。
「……ん?」
導かれるように歩み寄ると、猫の足元に何か黒っぽいものがあった。よく見ると、落とした財布だった。
「お、おいらの財布じゃねぇか。拾ってくれたのかい?」
「にゃ」
「ありがとよ、猫ちゃん」
松吉は財布を手にすると、猫に礼を言った。
「にゃー」
猫は返事をすると尻を向けて、ゆらりとしっぽを動かしながら歩いて行った。財布の中身を確認すると、確かに飲み代を差し引いた分があった。
「これで、女房、子供にうまいもんを食べさせてやれる。ありがとよ、猫ちゃん」
松吉は
それから数日後のこと。家族水入らずで正月を過ごしている時だ。ふと、財布を拾ってくれた猫のことを思い出した。
……もしかして、あの猫は、あの時の子猫では? 松吉に心当たりがあった。
あれは
「火事だーっ!」
近所の住人が大騒ぎしていた。火消しも兼ねた鳶ですから延焼を防ぐために周りの長屋を破壊するのはお手の物だが、
「中にミケが!」
「何? ミケって、猫かい」
「ええ。まだ子猫なんです。呼んでも出てこなくて。ミケーっ!」
女は不安げに燃え上がる炎に手を
「ミケ! どこだ」
「にゃ……」
か細い鳴き声がした。見ると、子猫が土間の隅にうずくまっていた。松吉は抱き抱えると、半纏の中に入れた。その瞬間、火の粉が目の前に落ちた。松吉は台所の桶にあった水を被ると、急いで戸口に走った。外に出た途端、屋根が崩れ、次々に瓦が落ちてきた。
「……ミケ」
女は安心した顔で子猫を見つめていた。
「にゃー」
「無事でよかった。ありがとうございます」
松吉に礼を言った。
「
松吉はそう言って子猫に背を向けた。
……財布を拾ってくれた猫は子猫じゃなかったから気付かなかったが、もしかして、あの時の子猫か? 二年も経てば立派な大人だ。火事から救ってやったお礼かな? もしそうなら、「ミケちゃん」て呼んで、抱いてやればよかったなぁ。と後悔しながらも、
「おっかしゃん。おいちい」
女房にそう言いながらうまそうに
晩飯もそこそこに早めに息子を寝かしつけたあとは女房とのスキンシップの時間だ。脇をこちょこちょし合いながらイチャイチャしていると、
「ねぇ、あなたぁ……」
女房が耳元で
「ん?」
「できちゃったみたい」
「何が? おできか?」
「違うわよ。……赤ちゃん」
「えっ!」
びっくりした松吉は目を丸くして女房を見た。
「ホントか?」
「……ええ」
女房は
「やったー!」
もう一人子供が欲しいと思っていた松吉は、思わず
財布を拾ってくれた猫は、手招き猫ならぬ福招き猫だったに違いありません。こいつぁ春から縁起がいいわぇ~!
■□■□幕□■□■
落語 招き猫 紫 李鳥 @shiritori
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