六郷響の怪决譚

蓬莱寺 嵐

第1話 教室

俺は、涼森修己。今年からなんてことない普通の高校生だ。ただ1つ違うことがあるとすれば、

『人でないもの』が見えるということだろう。そうして俺は昔から『人とは違うもの』として扱われてきた。そんな俺は今日、ある一人の人間に出会うことになる。



「えーと、入学式か……」

俺は、そんなやる気のない気分で入学式に臨もうとしていた。朝の身支度のために洗面所に向かった。よいしょ……鏡を見る。俺はいつも通りの自分の顔を見る。

「相変わらず不細工だな」

そんなことを言いながら俺はまた鏡を見る。

鏡の中には、俺が映っている……俺以外も映っている。俺の後ろには『人でないもの』が映っていた。しかし、それはいつものことである。この土地に住む呪縛霊?みたいなものなので大して怖くはない。


朝食を食べ終え、足早に外へ向かう。外の景色はいつもと同じ景色だ。

「あ、地蔵の上に老人が座っている。こりゃ、いけない奴だな」

ふと、声を上げた。しかし、また人ではないものと理解した。なぜなら、地蔵の上に座っている老人がいるにも関わらず、通りすがる誰もがその老人に見向きもしていないからだ。全く不便な世の中である。

(人でないものもないもので半透明になるなり、いっそ見えないでいてくれたらいいのに)

そんなことを思いながら俺はまた通学路を歩む。これから3年間、この道を通るのかと思うと高揚感もあるが早々に飽きも回ってくる。


そして、中学の時の最大の違いであるY字路の分岐に差し掛かる。

「えーと、中学の時は右に行ったよな?じゃあ今度は左か」

なんともバカバカしい独り言である。こんなのうみそだから中堅の高校にしか行けないのだ。


校門の前に着いた。電車で3、4個乗った駅のところにある。

「ここが俺のこれから通う高校か」

俺は期待に胸を膨らませ、校門の敷居に1歩を踏み出した。

教室に入る。なんてことない普通のクラスだった。坊主の人がいて、美人な人もいて、ちょっと人と喋ることが苦手そうな子もいる。そんなクラスに俺は放り込まれた。そんな大した感動も無く席につこうとした時だ

「そこの花瓶の位置少し動かして。なんか、やな感じがする」

と、声がした。俺は瞬時に目をそこにやる。それを言っていたのは1人の少女だった。それとその後ろには『人でないもの』の姿があった。確かにそこに花瓶があると、『人でないもの』に献花している形になり、居座るためよろしくない。しかし彼女はそれを退けた。懸命な判断だ。


肝心の彼女の席は、俺の斜め前であった。そのため俺はさっきのことを聞いてみることにした。

「君は、なんで花瓶を動かしたの?」

「別に、何となくやだったからかな」

「今まで生きてきて、幽霊とか妖怪とか見たことは?」

「ないよ〜、そんなの」

そっか、とそこで話は終わってしまった。しかし、俺は、これまで的確な判断をして『人でないもの』が見えないというのはどうにも信じられなかった。ので、俺はこれから彼女の行動に目を向けてみようと思った。

「名前、なんて言うの?」

「六郷 響、よろしく!」

「わかった。俺は涼森修己よろしく」

軽く自己紹介してお互いの席に着いた。

(響か……どっかで聞いた名前だな、でもこれから楽しくなりそうだ)

そんなことを思いながら俺は窓を眺めた。

「入学式に移る。全員整列」

先生の号令で俺たちは廊下に並ぶ。俺は再び高校生活に期待をしながら、体育館に向けて一歩を踏み出した。

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