第7話 血の神
光の剣を喰らおうとする闇の壁。
それを光で浄化する剣。
「ぐおおぉぉぉぉぉぉ!!」
剣をさらに強く突き刺す。
闇の壁にゆっくりと剣がめり込んでいく。
ぐちゃ。
その壁は硬く、粘液質。
押されている!?この私が......!?
「う、おおおぉぉ......!!」
そして壁は、
貫かれ、
「がっ、はっ......」
消えた。
剣は壁を破壊し、女神の腹を貫通。
そしてその剣は閃光を伴って爆発した。
煙が立ち込める。
「はあ、は、あ......やった、か......」
フォードは勝利を確信した。ここまで相手に苦戦させられたことはなく、魔力を枯渇するまで消耗したことはなかったからだ。
煙は薄くなり、女神のシルエットだけが見える。
下に向けられ項垂れる顔。
ぶらりと下げられる力の無き腕。
そしてその腕が
腕は大きく振るわれ、その手でフォードの腕をがしりと掴む。
「なにっ……!?」
煙が晴れる。
そこには腹に穴が空いた女神がいた。
「いたい、いたいわ。いたい。すごく痛い。いたいじゃないの!!」
もう一方の腕、左手の拳でフォードの腹を殴り、吹き飛ばす。
「っ──」
森の木にその体が当たり、凹ませる。
「がぁぁっ──」
口から血を吐く。
「じいちゃん!!」
叫ぶマーリン。
「痛いのよ、まぁいいわ、こんなの……」
左手に闇をつくり、腹の穴に当てる。
闇は穴にまとわりつき、広がる。
そして、穴を塞ぎ
「すぐ治っちゃうもの!」
新しい肌を再生させた。
「老いぼれはそうしてじっとしてればいいの、出しゃばらないでちょうだい」
フォードは今にも消えそうな意識のなか、マーリンを見る。
「あらぼうや、まだそこにいたのね、まあ!とても可愛らしい顔してるじゃない」
カーリーはマーリンにゆっくりと近づく。
「マーリン、逃げるん、じゃ……」
「うるっさいわね!!」
左手から鋭く細い闇を飛ばす。
そしてそれはフォードに突き刺さる。
「ぐはぁっ」
「じいちゃん!!」
気づくとマーリンのすぐ側にカーリーはいた。
そして体に手を触れさせる。
体を付ける。
胸を密接させる。
太ももを密着させる。
マーリンの顔のすぐ隣で
「やっぱり、可愛い顔してるわね。あなたみたいな可愛い子を見るとね……」
べろり。
マーリンの頬を下から上えと舐める。
「その顔が歪むのを見たくなっちゃうのよ!!」
狂気。
それは圧倒的なまでの狂気だった。
「い、いやだ……」
恐怖。
「あははっ、そうそう!その顔よ!!」
マーリンはなぜかカーリーのその狂気の笑いで冷静を取り戻した。
魔法で対処するしかない。
「
周りの石と木の破片がカーリーに向かって飛ぶ。
そしてそれにカーリーが注意を向けた瞬間にマーリンは距離を取る。
「あらあ、逃げられちゃったわぁ」
じいちゃんは俺が助ける!!
「
根が伸びる。そしてそれはカーリーを包み込む。
「
「
光の星がマーリンの前に煌めく。そしてそれは流れ星となり、木の根が包むカーリーへと飛んでいく。
「
フォードが先程使ったものと同じ魔法。
カーリーを包む木の根に流れ星が当たり、閃光を伴い炸裂し、木の根もろとも粉砕させる。
そしてそれを防ぐためにカーリーが守備体制に入るとマーリンには分かっていた。
そこに這い進む氷。それは守備体制を取っていたカーリーの意を突くものだった。
足が凍る。更に目の前にいると思ったマーリンの姿は既にそこにはなかった。
ごりゃあ。
顔を殴られた。
上かっ……!!
しかしその程度でよろめくような女神でもなく、降下してくるマーリンを逆に吹き飛ばす。
「あああああっっ……!!」
地面に叩きつけられる。血を吐く。初めて感じる痛み。腹がじんじんとする。声が出せない。
「あっ、かっ……」
「あらあ、その程度かしら……でもいいわぁその顔、ゾクゾクしちゃう」
カーリーの顔が美しく歪む。
「でもその程度じゃ私は満足しないわよ。ほら、いいのかしら、あなたの大事な
フォードに刺さっていた闇の針が変形し、体積を大きくさせる。
闇は膨らみフォードの体を1周する
そしてそれは、
「がぁぁぁぁぁっ!!」
きつく締まる。
「じい、ちゃん……」
「死んじゃうけど、いいのかしら」
死ぬ?じいちゃんが、殺される?
嫌だ。いやだいやだいやだいやだいやだ。
もうあんな苦しみ二度と味わいたくない。
見たくない。
ずっと一緒にいたい。
殺させたくない。
アイツを、
殺したい──。
バヂン!体のなかでなにかが壊れるような音がした。
「ころ、させない」
立ち上がる。
「あら?まだ立てるの?楽しませてくれるのね」
「お前はじいちゃんを傷つけた。お前は絶対に許さない」
前に1度、じいちゃんに聞いたことがある。なぜ自分の父と母は殺されたのか、と。
じいちゃんは全てを隠さずに教えてくれた。
自分の親は世界のルールに逆らい、禁忌を犯した。だから殺させた。
そしてそのルールを作ったのは神だということも。それを聞いた時、幼きながらマーリンはこう思った。
神に叛逆して、殺してやる。と。
なに、あの子ども、気配が急に変わったわ。
「あなたみたいな子どもに私っていう神になにができるの?何をしようと無駄なの!お前らでは神に勝てないのよ!!」
ぞくり。嫌なものを感じた。
これは気配。人でない。悪魔でもない。
これは、
神だわ。
「神法、闇術」
再び剣を作り出そうとしたそのとき、
「させるか」
腹を殴られた。先程のものと威力が違いすぎる。
「な、によ……」
まるで別人。神の気配はその
この気配は──
「なによ、なんなのよあなた!!」
マーリンは後方に大きく飛ぶ。
音のしない着地。この速さと行動技術。まさに神の領域。
そして、マーリンは口にする。
「神法──」
神にしか使えぬ技。
「血術──」
血神イコルの
「
それは鎖だった。
マーリンの体のあらゆる箇所からでる赤黒く光る鎖。
そしてそれは神速の速さでカーリーを串刺しにし、
空中でに固定され体を鎖で巻かれたカーリーは身動きができず、
「いやよ!いや!なんであなたがそこにいるの!死にたくない!いやよ!」
自分の未来を察し、悲鳴を上げた。
マーリンが地面に吐いた血から鎖が突き出される。
ぐじゃ。ぐちゅ。ぐしゃり。
腹に突き刺さる。まるでカーリーの体から鎖が生えているよう。
「……死ね」
1本の鎖が新しくマーリンの体から新しく生まれ、勢いよくカーリーに向かっていき──
「いや、いやよ!いや、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
顔を貫いた。
「終わりだ、女神」
体に巻き付く鎖が締め付けられた。
ごり、がき、ばきぼき。
ぐちゃ、びちゃ。みしゃり。みしみし。
骨が折れ、肉がさけ、脳髄が飛びだし、血を飛ばす。
森には血の雨が降った。
血神 ──神への叛逆── きむち @sirokurosekai
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