第3話 誰
「聖子ちゃん?元気にしてる?」
「あ、神社の神主さん。お久しぶりです。どうやって、この電話番号を?」
「あんたのお母さんに聞いたんだよ。それより、聞きたいことがあるんだけどね?」
「何ですか?」
「あの時、ちゃあんと全員分をお炊き上げする箱の中に入れてくれたのかね?」
「何のことですか?」
「昔に夢ちゃんの紐がなくなった時のことだよ。その時も、聞いたけど。」
「入れましたよ。夢ちゃんの以外はちゃんと入れましたよ。夢ちゃんの紐も、何度も箱を全部確認したじゃないですか。」
「そうだね。そうだった。だけど、ちょっと不安になってね。」
「何かあったんですか?」
「言っただろ。あの紐は、作った人の体に巣食う病を清めるものだって。」
「ええ。」
「あの村の人は皆、心臓に病を持ってる。15歳までは必ずあの紐に病を移さないといけない。あの紐をちゃあんと燃やさないと、病は体に残る。そして、間違った扱いをすれば、命に係わる。」
「あの時、そう聞きました。神主さんがこっそり教えてくれたの、覚えてますよ。」
「夢ちゃんは、やっぱりね。一日で急いで作った紐では効き目がなかったんだろうね~。」
「え?」
「亡くなったんだよ。先日、心臓発作でね。」
「まさか…。」
「そのまさかだよ。それに、その後を追うように晴臣くんまで心臓発作で亡くなってね。晴臣くんの紐まで炊き上げ忘れたかと思ったんだよ。」
「え…!」
「あの前日、手伝ってくれたのは、聖子ちゃんと夢ちゃんだったからね。ごめんよ、疑って。」
「やっぱり、子供に秘密にしておくのは良くないな。怖がらせちゃいけないと思って秘密にしていたけど、逆効果だった。ちゃあんと作った紐はうちで炊き上げないと死んじゃうよって教えないと。」という神主の声が聞こえた。聖子は、ガクガクと震える膝でその場に座り込んだ。先日、夢が東京の大学へ進学すると聞き、自分の晴臣への気持ちを成仏させようと、夢の紐を近くの神社で炊き上げてもらったばかりだった。
じゃあ、晴臣はなぜ死んだというのだろう。聖子の脳裏には、死して尚、聖子から晴臣を取り上げた夢の、勝ち誇った姿が浮かんでいた。
望想 nandemo arisa @arisakm
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