LAST.家族
───それから2ヶ月が経った頃
ママの容態が急変したと連絡が入った。
柊と結婚すると決まった時、私はママに会いたいと伝え、入院している名古屋の病院へ柊に連れて行ってもらった。
10年以上ぶりにママを見たとき……いろいろな感情が押し寄せて、涙が込み上げてきた。
あの頃の明るいママの姿はもちろんどこにもなく、ただ眠っているようにベッドに横たえていた。
小さい頃から本当の娘のように可愛がってくれたママ。
あの一件で私はママから嫌われてしまったけれど……私の中でママは、優しかった昔のママの記憶そのままだった。
大切な家族を奪った女の娘を恨みたくなるのは当然のことで、ママは何も悪くないと私はずっと思っていた。
柊と結婚したことでママとも本当の家族になれて、私はとても嬉しく思っていた。
たとえこのまま植物状態であっても、ママには生きていてほしい……。
そう思っていた矢先の容体の急変。
私たちは慌てて名古屋の病院へ向かった。
──病院に到着すると、医師から今日が最期だと告げられる。
ママと過ごした思い出が走馬灯のように頭の中を巡り、悲しくて切なくてたまらなかった。
私は看護師さんに誘導されて柊と一緒にママのベッドの傍まで近づいた。
「……ママ……?」
手を握り、私が声を掛けると……
一瞬ピクリと、ママの手が動いた気がした。
そして………
ママは、ゆっくりと息を引き取った……。
もう、涙を堪えることなど出来なかった。
柊が一番つらいのだから、私が泣いてはいけないと思って必死で堪えたけれど……限界だった。
私は声をあげて泣いた。
大声をあげてひたすら泣いた。
柊も泣いていたけれど、どこか少しほっとしたような顔をしていて、私の背中を摩りながら静かに涙を流していた。
──その日の夜、柊の叔父さんの家に行った。
「はぁ~。柊、お前こんなべっぴんさんと付き合ってたなんて聞いてねーぞ?笑」
ママが亡くなった悲しい日だったけれど、柊も叔父さんもやっぱりどこかほっとしたように笑顔を見せていた。
私はそんな二人の様子から、これまでの二人の苦労を感じた。不謹慎だとは全然思わなかった。
「あ……そうだ。柊、これ……」
叔父さんは一通の手紙を柊に渡す。
「……すいません、預かってもらっちゃってて」
柊はその手紙を受け取ると、私に差し出してきた。
「……ママの遺書。亜妃にも読んでほしい」
驚いて見つめると、無言で頷く柊。私はゆっくりと手紙を取り出し、中を開いた。
───────────────────
柊へ
ごめんね。こんなママでごめん。
亜妃ちゃんと別れさせてしまったこと
後悔してます。
子供の頃から大好きだったのにね。
亜妃ちゃんのこと
本当の娘のように思ってた。
いつもママって呼んでもらえて嬉しかった。
亜妃ちゃんにまた会えたら伝えてね。
ごめんねって。
ママより
───────────────────
……滝のように涙が溢れて止まらなかった。
泣き続ける私の肩を、柊はそっと抱きしめてくれた。
「……お前のことばっか……書いてるっしょ?」
私は頷いた。何度も頷きながら泣いた。
叔父さんも服の袖で目を押さえているのが見えた。
ここにいる皆が、天国でのママの幸せを強く強く願っていた──
───葬儀を終え、東京の自宅に帰る。
柊と二人でソファーに座って、ママの話をしながらゆっくりと過ごした。柊は缶ビールを飲み、私はノンアルのカクテルを飲んだ。
「俺……もしお前いなかったらって想像したら……なんかすげーこえーわ。笑」
切なげな表情で天井をぼーっと見つめている。
私は柊の左手を掬って、小指にそっと自分の指を絡めた。柊はその手を取り、ギュッと深く繋ぎ直す。
「親父もママも死んでさ……?今頃その報告受けて、家族が誰もいなくなって、まじで一人ぼっちだーってなって。たぶん俺、更に腐ってただろうな。笑」
柊があまりに寂しそうに言うから、私は泣きそうになってしまったけれど。
ここで、柊に伝える決意をする。
「──柊には、わたしがいるから大丈夫」
柊の澄んだ瞳をまっすぐに見つめた。
「それにね……?」
「柊の家族……ここにもいるよ?」
繋いでいる柊の手を、そっと私のお腹に導く。
「柊と、私と……もう一人……ね?」
「え……?……え、嘘?!まじで……?!」
───数年後……
「亜妃ちゃーん、もう今日は上がって良いわよー」
仁美さんがオーナーを勤めるサロンが新しくオープンした。
人手が足りず、単発で手伝いに来たものの、気付けばもう……こんな時間。
「パパ、お家で待ってるんじゃない?」
ニヤリと悪戯に笑う仁美さん。
「ま、あれだけイクメンなら特に心配はいらなそうだけど。笑」
……そう。家では柊が子守をして待ってくれている。
「あんまり無理しないでね?手伝ってくれるのは助かるけど……身体も心配だしさ。妊娠は毎回違うって言うしね~」
優しい仁美さんの言葉に、またちょっと膨らんできたお腹をそっと摩る。
「ありがとうございます、仁美さん」
──帰る前に少し受付の片付けをしていると……
「すみませーん!」
サロンの入口から聞き覚えのある声。
ふと顔を上げる。
「……え、勇人くん?!」
「……亜妃ちゃん?!う~わ、まじか!久しぶり〜!」
相変わらずの爽やかな笑顔。手にはサロンのパンフレットと式場のカタログ。
振り返る勇人くんの後ろには……彼の背中に寄り添うように立っている可愛らしい女性の姿。
不安そうに私を見る彼女の腰に、やさしく手を添える勇人くん。
見つめ合う二人。
“勇人、知り合い?”
“んー、ちょっとね。笑”
そんなやり取りを目でしているのが分かる。言葉なんてなくても……ちゃんと通じ合っている。
まるで……二人だけの世界がその空間に広がっているような……
そんな特別な空気感を、私はたしかに感じていた──
ツインレイ 望月しろ @shiro_mochizuki
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