2.瀬奈の練習を眺める二人。
寒さが一層深まっていく、この時期。
しかしながら、運動部の人たちは誰も彼も元気いっぱいだった。今朝方、少しだけ降った雪に苦心しつつも、大きな声を張り上げる野球部員が印象的だ。
そして、その威勢のよさは瀬奈の所属するハンドボール部も同じで――。
「次! キーパー練習!」
「はい!!」
キャプテンである瀬奈の掛け声に、他の部員たちはみな一斉に声を上げた。
キーパーの立つゴール。その正面に縦になって並び、順番にシュートを打っていく。その一連の練習が終わると、休む間もなくサイドからのジャンプシュートの練習に入った。
以前にも話題になったかもしれないが、うちの高校は県下でもそれなりに実力を持っているチームらしい。だが、運動に関しては疎い俺でも分かる。
「凄いな、ホントに……」
なんというか、気迫が普通ではなかった。
誰もが、一直線にやるべき目標に向かって進んでいる。
こちらが感嘆していると、隣にいる絵麻もまた白い息を吐きながら頷いた。
「生徒会でも、たまに話題になるの。ハンドボール部はここ最近、一気に実力をつけているね、って」
「もしかしたら、瀬奈の影響が大きいのかもしれないな」
「うん……」
すると、絵麻は不意に黙り込んだ。
どうしたのかと彼女のことを見ていると、義妹はこう口にする。
「お兄ちゃん、ってさ――」
どこか思い悩んだような声色で。
「野川さんみたいな、元気な子の方がタイプだったりする……?」――と。
上目遣いにこちらを見ながら。
絵麻は、そう訊いてきた。
「んー……?」
急にどうしたのだろうか。
しかし、どうやら真剣な問いかけのようだった。
ここは変に茶化すのではなく、思っていることを素直に答えよう。
「……そう、だな。やっぱり、元気な子の方が好きだよ?」
「そっか」
正直な好みを言えば、やはり快活な女子の方が好きだった。
もしかしたら、それは瀬奈とずっと一緒にいたから。その影響も少なからずあるのかもしれない。俺はボンヤリとそう考えながら、一つだけ補足した。
「でも、最近は静かな子も悪くないかな、って」
「え……?」
嘘偽りなく。
俺は自分の考えを口にするのだった。
「結局は、その人のことをどれだけ知っているか、じゃないかな。例えば瀬奈とはずっと一緒にいるから、よく知ってるし。でも、そんな関係じゃないけど」
「…………」
結局のところ、その人となり次第だろう。
気の合う相手かどうか、と言ってしまえば早いかもしれなかった。自分の趣向が変わりつつあるのは何故か、理由は分からないけれど。とにもかくにも、一口にこれが好き、というのは言い切れなかった。
「ところで、絵麻。どうして急に――絵麻?」
一通り考えを述べて。
俺は黙り込んだままの絵麻を見た。すると、
「どうしたんだ。そんな、顔を赤くして?」
「な、なんでもないもん!」
そこには、どこか上の空な彼女がいて。
声をかけると慌てた様子で、そう答えるのだった。
試合前の練習が終わるまで。
絵麻はずっと、どこか落ち着きなくしていた。
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