第4章
1.始まるかもしれない感情。
「親父と恵梨香さん、今日の夜帰ってくるんだっけ?」
「うん! 八時ぐらいかな」
「そっか。それなら、なにか買い出しに行くか? 結婚祝いみたいなこと、なにもできてないわけだし」
ある日の夕方のこと。
帰り道で、俺と絵麻はそんな話をしていた。
急転直下でハワイへ向かった両親。そんな二人が今夜帰ってくるのだが、お祝いのようなことをしていないことに気付いた。
再婚とはいえ新婚なのだから、めでたいことに変わりはない。
最初に聞いた時は眩暈がした。
それでも一ヶ月、義妹と過ごして色々と整理ができたのだ。
「そうだね、お母さんも喜ぶと思う!」
「よし。だったら、ケーキでも買って帰ろう」
「わーいっ!」
ケーキ、という単語に対して無邪気に喜ぶ絵麻。
微笑ましいその姿に、俺は思わず笑って彼女の頭を撫でた。初めの頃はぎこちなかったこれも、ずいぶんと当たり前の行動になってきている。
絵麻は人懐っこい笑みを浮かべて、俺のことを見上げた。
そして、俺の腕に自分のそれを絡めてくる。
「ねぇ、お兄ちゃん。駅前のお店、行ってみようよ!」
「新しくできた店だっけ。いいよ、行こうか」
「うん!」
そんな可愛い義妹の提案で、ほんの少しの寄り道が決定したのだった。
◆
「へぇ、可愛らしい装飾だな」
「ホントだね! あ、これ見てよ!」
駅前のケーキショップに到着すると、絵麻は早速ショーケースに釘付け。
俺のことを手招きして、中にあるホワイトチョコのホールケーキを指さした。価格はそれなりで、大きさも四人で食べるのにちょうど良い。
「これにするか?」
「うーん。中に入って見て決めよ?」
「分かった。そうしよう」
ひとまず、俺たちは店の中に入ることにした。
すると元気の良い店員が、挨拶してくれる。客もまばらな時間帯なのか、こちらに駆け寄って声をかけてくれた。
柔和な笑みを浮かべるその女性は、俺たちを観察してこう言う。
「いらっしゃいませ。恋人同士さん、ですかね?」――と。
一瞬、思考停止。
「え……」
「ひぅ、ここ、恋人!?」
案の定、といえばいいのか。
絵麻を見ると、耳まで真っ赤になってしまっていた。
これは相当に恥ずかしいのだろう。俺は苦笑いしつつ訂正した。
「あぁ、いや。兄妹です」
「そうなんですか? 仲良く手を繋いでいたので、てっきり……」
「あはは。普通ですよ、これくらい」
「そ、そうですね……!」
そう言うと、若干だが妙な空気になる。
……ん?
俺、変なこと言ったか?
「それでは、ご自由に見て行って下さいね!」
そう言うと、店員は奥へ。
俺は首を傾げながら、隣の義妹を見た。
「大丈夫か? ……絵麻?」
「こ、恋人……」
絵麻はそう小さく言うと、ほんの少し握る力を強く。
ちらり、こちらを見て恥ずかしそうに頬を掻くのだった。俺はその意図が分からず、頭の上に疑問符を浮かべてしまう。
だが、すぐに気持ちを切り替えて彼女の手を引くのだった。
◆
「こ、恋人……じゃない。お兄ちゃんだもん!」
絵麻は小さくそう呟いて、拓哉の背中を見た。
「でも……」
しかしすぐに、目を細めて言う。
ボンヤリとしながら、ずっと気になっていたことを。
「お兄ちゃん。好きな女の子、いるのかな……?」――と。
それは無自覚な、微かな心の動き。
いずれ始まるかもしれない感情の芽生えだった。
――――
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