10.理由。









 絵麻は自室の毛布にくるまりながら、拓哉の言葉を思い返す。

 彼は妹の気持ちを考えて、一緒にいると約束してくれた。それが自分のやりたいことだと、そう言って。それがどれだけ、彼女の心を救ったか分からない。

 心細い気持ちを包み込む、兄の優しさ。

 妹はそれを享受して、初めてといっても良いほどの安らぎを覚えた。



「お兄ちゃん……」



 もちろん、恵梨香が自分をないがしろにしたとは思っていない。

 むしろ迷惑をかけていると感じたからこそ、安らぎを得るに至らなかった。甘えられる相手という存在に触れたのが、本当に初めてに近いのだ。

 だから絵麻の抱いた感謝の念は、ひときわ大きなもの。

 先ほどの涙は、それを示すものだった。



「頑張らないと……!」



 少女はスマホを取り出し、画面を見ながらそう口にする。

 そこに映っていたのは――。




「いつか、必ず会いに行くからね。……パパ」




 一人の、男性の姿。

 絵麻にとって、実の父親にあたる人物だった。



 




――――

この章はここまで!

次章は少し甘々かもしれません……?


いつもお読みいただき、誠にありがとうございます!

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