7.直球ながらも弱気な少女。










 その頃の野川家。

 瀬奈は自室でベッドに転がりながら、ニヤニヤと笑っていた。

 というのも、文面からも分かるほどに絵麻が動揺していたから。彼女にとってその反応は、想定内でありながらも嬉しいものだったのだ。



「えへへ、嬉しいなぁ」



 幼馴染の少女は、アルバムとスマホの画像フォルダを見ながら。

 次はどの写真を送ってあげようか、ずっと考えていた。

 しかし、瀬奈はなぜそのようなことをするのか。


 その理由は一つだった。




「たっくんのこと話せる相手、できて楽しい!」




 単純に、自分が恋する相手のことを話せて喜んでいる。

 それだけだった。


 つまり瀬奈という少女に、打算など皆無。

 むしろ、彼女に計算という行為は不可能に近いのだった。

 どうやって高校に合格できたのか。それは、周囲の人間の永遠の謎だ。



「あ、中学の時の画像があった!」



 そうしている間にも瀬奈は、絵麻に画像を連投。

 今ほど送ったのは、中学の時に拓哉が体育祭の応援団長を務めた時のものだった。そういった写真を見るたびに、幼馴染の少女は思い出に浸る。

 そして、しばしの沈黙に入るのだった。





「たっくん、振り向いてくれないかなぁ……」





 呟く瀬奈。

 ほんのりと頬は赤くなり、すぐに首を左右に振った。



「だめだめ! 弱気はアタシらしくない! でも――」



 だが、そう口にしてから。

 ぼそりと、こう続けるのだった。



「駄目だったら、怖いなぁ……」――と。






 野川瀬奈。

 拓哉の幼馴染は、想像以上に純粋なようだった。



 






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