第2章

1.忘れもの。









「……おはよ、絵麻」

「おはよ! お兄ちゃん!」

「あれ、なにをそんなに急いでいるんだ?」



 ――翌朝。

 目が覚めると、義妹は少し慌てた様子で外出の準備をしていた。

 学校の制服を着ていることから、そこへ向かうことは分かる。彼女は間延びした俺の声に、早口にこう答えるのだった。



「今日、生徒会の集まりがあるって忘れてたの!」

「冬休みに、そんなのあるのか」

「うん! ――あ、朝ご飯は冷蔵庫にあるの食べて! ごめんね!」

「え、あ……うん」



 そして、パタパタと玄関へと駆けて行く。

 しかし最後はハッとした表情で、こちらを振り返って笑った。



「行ってきます、お兄ちゃん!」――と。



 俺はそれに、手を振って応えた。

 で、玄関の扉が閉じるのを確認してからリビングへ戻る。

 ソファーに腰かけて、テレビの電源をつけた。ひとまずゲームを起動して、オンラインにして、しばしの間は自堕落な日常を送ることに。



「あー、でも腹減ったな」



 時計の針は十時を示していた。

 朝食というには遅すぎるが、とりあえず何かを腹の中に入れておくべきだ。そう考えて俺は、絵麻が用意してくれたという朝食を探す。

 そして、キッチンへと向かった。

 その時である。



「ん……? これ、弁当箱だよな」



 わざわざ口に出すまでもない。

 台所に、シンプルな色合いをした弁当箱が置いてあった。

 俺や親父のものではない。となると、必然的に誰のものかは特定できた。



「絵麻のやつ、慌ててて忘れたんだな」



 学校では完璧人間のように振舞っているが、一緒にいると案外抜けている。そのことが分かって、一気に親近感がわいてきた。だが一度、ふっと小さく息をついて。

 俺は再び、時計を確認した。



「今から行けば、ちょうど昼飯時だな」



 せっかく作ったのだから、届けてあげよう。

 俺はそう考えて着替え始めた。



 休みの学校に行く。

 それは、少しだけ冒険のようにも思えるのだった。



 






――――

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