2.生徒会室にて。








 ――我らが生徒会長は、完璧な女性である。



 冬休みの生徒会室。

 そこには、年内に片付けなければいけない雑務に追われる生徒会メンバーが集まっていた。しかし例年に比べて、その仕事の消化速度はかなり速い。

 なぜかと言えば、それは生徒会長――砂城絵麻の存在にあった。



「会長。ここなんですけど――」

「それについての資料は、別途ファイルにまとめてあります。適宜参考にして、ミスのないように気を付けて作業してください」

「分かりました。ありがとうございます」



 他のメンバーへの仕事の割り振り、細やかな気配り、さらには過不足なく情報を共有し、分かりやすく資料をまとめる能力。事務能力や統率力、学業や運動においても完璧な少女。そんな彼女の周囲には自然と、それを慕う面子が揃っていた。



「少し、席を外しますね」

「分かりました」



 手洗いだろうか。

 そんな絵麻が席を立つと、一人の女子生徒が答えた。

 そして会長が生徒会室を出て行くと、書記である男子が語り出す。



「いやぁ、さすがは砂城会長だよ。もう、仕事終わるぜ?」



 少し長めの黒髪、その毛先を遊ばせた彼――高橋玲は、感嘆の声を漏らした。それを耳にして、反応を示したのは眼鏡をかけた女子。



「当たり前でしょ? 絵麻会長は、完璧なんですから」

「……ホント、雨宮は会長のこと好きなんだな」

「好きではありません。これは、尊敬です」



 一年生の少女――雨宮恵は、はっきりとそう断言した。

 お下げ髪を少し払うようにして、またいそいそと作業に戻る。そうしていると、茶化すように副会長であるもう一人の男子が言った。



「ほほう? あくまで敬意であって、好意ではない、と」

「なんですか、佐藤副会長……?」

「いやいや、他意はないよ」



 ニヤニヤと、なにを考えているか読めない。

 そんな表情で、副会長である佐藤良太はそう口にした。常に笑顔であるため、その顔色の変化を読み取ることはできない。

 そのため雨宮は、佐藤のことが苦手だった。

 とはいえ、生徒会活動において好き嫌いは度外視。


 尊敬する砂城会長の傍にいるためだ。

 そう考えて、彼女は咳払いを一つ作業に戻ろうとした。



「みなさん、なにを話していたのですか?」



 その時だ。

 絵麻が生徒会室に戻ってきたのは。

 悪意はないのだが、一瞬だけ空気が固まった。だが、すぐに――。



「あぁ、会長。そろそろ、昼食時かな、と」



 生徒会メンバーのひょうきん者担当。

 高橋が、即座にそうフォローを入れるのだった。

 そう言われて絵麻は、壁にかけられた時計を確認する。たしかに彼の言う通り、時計の針はもうじき十二時を示そうとしていた。

 それなら、ちょうどいいだろう。



「分かりました。では、各自休憩を取って下さい」



 絵麻はそう考えてメンバーにそう指示を出した。

 自分も席に着き、カバンから弁当箱を――。




「ひぅ……」




 取り出そうとした。

 その時である。生徒会長の口から、聞きなれない声が漏れたのは。



「ひぅ……?」

「会長、どうされました?」



 佐藤と雨宮が、不思議そうに彼女を見た。

 しかし、絵麻はあえて何もなかったかのように、表情を変えずに答える。



「なんでもありません。お気になさらず」



 そして、もう一度だけ視線をカバンの中に。

 で、しばしの硬直。



「もしかして、弁当忘れたんすか?」



 そんな絵麻の様子を見て、核心を突いたのは高橋だった。

 彼の言葉に、会長は動揺する。それでも咳払いをして、否定の言葉を――。





「違います。ですから――」

「おーい、絵麻? 弁当箱忘れただろ、持ってきたよ」




 口にしようとした、その瞬間。

 ガラリと部屋のドアが開けられ、その向こうに一人の男子生徒が現れた。

 やけに親しげに会長の名を口にした少年。そんな彼を、メンバー全員が見た。そして、中でも明らかな動揺を見せたのは……。




「お兄ちゃ…………っ!」




 絵麻だった。



「……ん?」

「会長、いまなんと?」

「お兄ちゃん……?」





 高橋、雨宮、そして佐藤の三人は顔を見合わせる。

 対して生徒会室に現れた少年――小園拓哉は、小首を傾げるのだった。



 







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