4.信じる。
「ねぇ、お兄ちゃん。お願いがあるんだけど……」
「どうしたんだ、絵麻?」
いまだに『お兄ちゃん』と呼ばれることに慣れない。
だが最大限に平静を装って、俺は義妹の声に応えるのだった。
首を傾げていると、絵麻はどこか恥ずかしそうに言う。
「あのね、今日ってクリスマス当日でしょ? だから、その――」
口元を手で隠しながら。
「一緒に、お出かけできたら嬉しいな……って」
若干の、上目遣いで。
「ごふっ……!」
「どうしたの!? お兄ちゃん!?」
「き、気にするな妹よ。兄ちゃんは今、初めて尊いという言葉を知っただけだ」
「と、尊い……?」
あまりの愛らしさに、俺は後方にぶっ倒れた。
慌てて絵麻が助け起こしてくれるが、これは駄目だ。想像以上の破壊力。冗談から端を発した一連の騒動ではあるが、彼女いない歴=年齢の俺には爆弾だった。
とかく、血の繋がらない美少女から一緒に出掛ける――いうなればデートのお誘いなんて、冷静でいられるはずがない。
「いや、落ち着け。俺はあくまで兄貴だ……!」
しかし、そこまで考えて俺は理性を働かせた。
絵麻が期待しているのは、頼りになる兄、という存在。
女の子が意を決して求めたものに、応えられずして、なにが男か。
「お兄ちゃん……?」
「あぁ、いいぞ。俺に任せておけ」
「え、大丈夫? なんだか、目が半開きなんだけど……」
そう考えた俺は、心頭滅却――煩悩を打ち消してサムズアップ。
義妹には心配されたが、なんということはなかった。
こうして、俺と絵麻の二人のクリスマスは幕を開ける。
人生で初めての、女の子と二人きりの外出だった。
◆
「うぅ、緊張する……!」
身支度をしながら、絵麻はそう呟いた。
何故なら彼女にとっても、異性と二人きりの外出は初めだったから。
「でも、相手はお兄ちゃんだもん! 大丈夫!」
その緊張はあったが、必死に自分にそう言い聞かせる。
この数週間、拓哉という人となりを観察してきた。他の生徒にも聞き込みをするなどして、彼という人物について調べてきたのだ。
その調査の結果、分かったのは男女どちらからも信頼を得ていること。
拓哉のことを悪く言う者は、誰一人としていなかった。
「それに……」
加えて、少女は自分の頭に触れる。
先ほどはとても自然な流れで、彼は絵麻の頭を撫でた。
とても温かく、邪な感情など微塵も感じられなかったのだ。だから、
「私は、お兄ちゃんを信じる……」
彼女は、覚悟を決める。
そして深呼吸一つ、荷物を持って部屋を出るのだった。
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