4.信じる。









「ねぇ、お兄ちゃん。お願いがあるんだけど……」

「どうしたんだ、絵麻?」



 いまだに『お兄ちゃん』と呼ばれることに慣れない。

 だが最大限に平静を装って、俺は義妹の声に応えるのだった。

 首を傾げていると、絵麻はどこか恥ずかしそうに言う。



「あのね、今日ってクリスマス当日でしょ? だから、その――」



 口元を手で隠しながら。



「一緒に、お出かけできたら嬉しいな……って」



 若干の、上目遣いで。



「ごふっ……!」

「どうしたの!? お兄ちゃん!?」

「き、気にするな妹よ。兄ちゃんは今、初めて尊いという言葉を知っただけだ」

「と、尊い……?」



 あまりの愛らしさに、俺は後方にぶっ倒れた。

 慌てて絵麻が助け起こしてくれるが、これは駄目だ。想像以上の破壊力。冗談から端を発した一連の騒動ではあるが、彼女いない歴=年齢の俺には爆弾だった。

 とかく、血の繋がらない美少女から一緒に出掛ける――いうなればデートのお誘いなんて、冷静でいられるはずがない。



「いや、落ち着け。俺はあくまで兄貴だ……!」



 しかし、そこまで考えて俺は理性を働かせた。

 絵麻が期待しているのは、頼りになる兄、という存在。

 女の子が意を決して求めたものに、応えられずして、なにが男か。



「お兄ちゃん……?」

「あぁ、いいぞ。俺に任せておけ」

「え、大丈夫? なんだか、目が半開きなんだけど……」



 そう考えた俺は、心頭滅却――煩悩を打ち消してサムズアップ。

 義妹には心配されたが、なんということはなかった。



 こうして、俺と絵麻の二人のクリスマスは幕を開ける。

 人生で初めての、女の子と二人きりの外出だった。









「うぅ、緊張する……!」




 身支度をしながら、絵麻はそう呟いた。

 何故なら彼女にとっても、異性と二人きりの外出は初めだったから。



「でも、相手はお兄ちゃんだもん! 大丈夫!」



 その緊張はあったが、必死に自分にそう言い聞かせる。

 この数週間、拓哉という人となりを観察してきた。他の生徒にも聞き込みをするなどして、彼という人物について調べてきたのだ。

 その調査の結果、分かったのは男女どちらからも信頼を得ていること。

 拓哉のことを悪く言う者は、誰一人としていなかった。



「それに……」



 加えて、少女は自分の頭に触れる。

 先ほどはとても自然な流れで、彼は絵麻の頭を撫でた。

 とても温かく、邪な感情など微塵も感じられなかったのだ。だから、



「私は、お兄ちゃんを信じる……」



 彼女は、覚悟を決める。

 そして深呼吸一つ、荷物を持って部屋を出るのだった。



 







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