3.兄になる。
朝食を摂り終えて。
俺はリビングのテレビでニュース番組を見ていた。
普段は絶対に視聴しないものを、だ。どうして見ているのかと問われれば、答えは明白、一つしかない。ちらりと、腰掛けたソファー越しに後方を振り返った。
するとそこには――。
「ふんふふ~んっ!」
鼻歌交じりに、テーブル近辺の清掃を行う高嶺の花の姿。
テキパキと無駄のない動きで、彼女はあらゆる家事を進めていた。きっと将来は、良いお嫁さんになるだろう。だが、今はそんなことどうでもいい。
問題は山積していて、俺の頭の中が整理できていないのだ。
だから、一つずつ解決していくことにしよう。
「な、なぁ? えっと――え、絵麻!」
「え? どうしたんです?」
俺が声をかけると、絵麻は手を止めて首を傾げた。
こちらの言葉を待っているようなので、まずはジャブを打つことにしよう。
「親父と恵梨香さんの再婚、いつから知ってたんだ?」
両親の仲を知ったのは、いつなのか。
俺は昨夜までまったく知らされていなかったが、彼女はどうか。しばし待つと絵麻は、こちらへ歩み寄りながらこう答えた。
「私は今月の始めに教えてもらったかな。素敵な人がいるの、って」
「今月の始め、か。やっぱり……」
どうやら、二人が再婚を決めた遠因は俺にあるらしい。
あの無茶ぶり以外のなにものでもない、クリスマスプレゼントの要望が。
「……で、昨日の放課後。絵麻は俺に興味がある、って言ったのか?」
「うん、そうだよ。お兄ちゃんになる人が、どんな人なのか知りたかったから」
「ははぁ、だんだん繋がってきた」
急接近してきたように感じたのには、それなりの理由があったらしい。
俺は少しばかり呆れた笑いを浮かべつつ、そろそろ一番気になることを訊くことにした。というのも、どうして絵麻は俺のことを――。
「なぁ? どうして『お兄ちゃん』なんだ?」
兄と、呼ぶのか――と。
この質問を受けると、彼女は俺の隣に腰かけた。
そして、小さく息をついてから言う。
「えっと、お兄ちゃんは四月生まれでしょ? 私は五月だから」
「え、それだけ……?」
「うんっ!」
「…………」
屈託のない笑みを浮かべて。
俺はそれに対して、苦笑いしかできない。
たったひと月しか離れていないのに、それだけでこんな扱いになるのか。そう考えていると、付け足すように絵麻がこう口にした。
「でもね、甘えてるのは私のワガママなの」――と。
ほんの少しだけ、頬を赤らめて。
「ワガママ……?」
「うん」
訊き返すと、彼女は笑った。
「私ずっと、お兄ちゃんほしかったの! だからお母さんが再婚するって聞いた時、自分より早く生まれた男の子がいるって知って、嬉しかった!」
無邪気に。
いつも学校で見た表情が仮初だと、証明するように。
絵麻はずっと、頼りになる兄が欲しかった。
もしかしたら、それは――。
「ねぇ、拓哉くん。改めて、お願いします」
「…………え?」
そこまで考えた時。
不意に学校での絵麻に戻って、彼女は俺の手を取った。そして、
「嫌じゃなければ、私のお兄ちゃんになって、くれますか?」
微かな怯えを露わにして、そう訊いてきた。
緊張による震えが伝わってくる。
それを感じて、俺はもう迷わなかった。
「いいよ、大丈夫。今日から俺は――」
空いている方の手で、絵麻の頭を撫でながら。
「絵麻の、お兄ちゃんだ」
そう、断言するのだった。
「……うん。うんっ! ありがとうっ!」
満開の花を咲かせる絵麻。
俺はその表情を見て、どこか胸の空くような思いがするのだった。
――――
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