第45話 私の話⑯ 光射す空
目と目があった瞬間、彼も全てを悟ってくれたようでした。
最後の最後で、気持ちを通わせることができた。そのように感じていました。
しかし、刹那のことでした。
ビョウと突風が駆け抜けたかと思ったら、目の前に真っ白い何かが横切りました。
それは、死へと落ちている彼を包み込むと、流れてきた勢いそのままに、彼を運び去ってしまったのです。
「テント?」
後日知ることになるのですが、この近くの小学校の運動会が、この日に予定されていたのです。台風の影響で、開催は微妙な天気になることは分かっていたのですが、準備だけは整えて。
しかし、児童のひとりが早朝に学校に忍び込み、運動会を中止に追い込むためにテントやカラーコーンといった道具を固定してた重しやロープを解いてしまい、こんなところまで飛ばされてしまったらしいのです。
その子はひどく叱責されたらしいですが、同時に、結果としてひとりの男性の命を救ったことで、褒賞を与えられることにもなります。
彼はテントに包まれ、風に流され、すぐ近くを流れる川へとダイブすることになりました。
その様を見届けながら、私はひとつの言葉を思い出していました。
『突拍子もない奇跡を目の当たりにすれば、きっと、どんな罪も許せるよ』
私自身の言葉です。
彼が救助されるのは、もっと後になってからなのですが、何故だか彼が生きていることを確信していたのです。
「これは……。許さざるを得ないよね」
何だかドッと疲れてしまい、思わず笑みを浮かべてしまいました。
その視線の先には、雲の隙間から射す陽の光が幾本の筋となって地上へと降り注ぐのが見えています。それは、ひどく希望に満ちた光に感じたものでした。
FALL おとのり @otonori
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