年越しそばって…いつ食べる?

しおん

年越し(1話完結)

「年越しそばって…いつ食べる?」


 12月31日、手が悴むような寒い日に、僕は彼女を最寄りの駅で落ち合い、近所のスーパーで野菜やらビールやらを買い、家へ向かっていた。

 今夜、初めて彼女と僕の家で年越しをする予定なのである。

 こたつでテレビでも見ながら、大好きな人と年を越せる…そんな年末ほど、幸せなことはないのではないだろうか。

 そんなことを考えていると、ふと1つの疑問が湧いてきた。年越しそばだ。

 僕は大学に入った時に一人暮らしを始めたが、料理はあまり得意ではないし、面倒なので、家にいる時はほとんどの日をカップラーメンや冷凍食品を駆使して生活している。彼女にはいつも野菜を食べて!と怒られているがなかなか難しいものだなと思う。

 年越しそばも同様に、1人分を茹でて作るのは面倒なので、毎年カップめんのそばで何となくの年越し気分を味わっていた。

 でも今年は彼女との年越しだ。そんな適当に年越しをするなんて嫌だ。

 だから、僕は彼女に聞いた。「年越しそばって…いつ食べる? 」と。

「年越しそばって、本当は年越しをするその時に食べるものなんでしょ?」彼女は待ってましたとばかりに万遍の笑みでそう言った。

 彼女は生まれてから現在まで、実家暮らしだ。そして彼女は家族以外と年越しをするのは初めてらしい。とても楽しみなのか、無いはずの尻尾がぶんぶんと激しく振られているのが分かる。彼女は感情が体から溢れている。そんな無邪気な姿が本当に可愛い。

 それにしても、彼女はいつも夜は苦手で23時には寝てしまう様な人だが、今日は頑張って起きているつもりなのだろうか。

 まぁ、でも彼女が年越しに食べたいと言っているのだから彼女のしたいようにさせてあげたい。

「分かった。じゃあ丁度年を越す時に食べようね。」


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 23時45分。

 彼女は寝息を立てて寝てしまっている。数分前までテレビで好きな歌手が歌っていて嬉しそうに一緒に歌っていたのに。こたつに突っ伏して幸せそうな顔をしている。

 そんな彼女を横目に、僕は明日の準備を始めた。ゆるゆると起きて、車に乗って、初詣に行こう。露店で彼女がわたあめをたべて口をべたべたにしているのが目に浮かび、思わず口がほころぶ。

 …しかし、何か足りない気がする。

 年越しそばだ。すっかり忘れていた。時計を見ると23時50分である。年を越すまで、あと10分だ。

 スーパーで買った乾麺を茹でるのでは、まだ鍋にお湯を沸かしてすらいない今、年越しには間に合わない。

 僕は明日の準備を放り出し、急いでケトルに水を入れてスイッチを押した。そして近所のコンビニへと自転車を走らせた。

 人気のないコンビニに自転車を止め、体当たりのように扉を開ける。カップ麺コーナーへ小走りし、緑のたぬきを2つ手に取り、レジに持っていく。

 ダイレクトに前カゴへ入れ、全速力で家へ戻る。

 23時56分。

 透明のフィルムを剥がし、粉末スープを入れ、沸かしておいたお湯を注ぐ。

 彼女を起こしつつ、箸を取りに行く。

 眠い目をこすって大きく伸びをした彼女は、時計に目を移すとはっとした顔をして、僕の目を見つめるなり、しゅんとしていた。

 僕は彼女の前に緑のたぬきを置いた。

 23時59分。

 アラームが鳴り、蓋を開ける。いつも食べるあの匂いが部屋中に立ちこめる。

「「いただきます。」」

 箸でそばを掴み、ふーふー。と冷まして口へと運ぶ。彼女はいつもカップめんをあまり食べないからか、とても珍しそうにじっくりと見ながら口に入れた。

 充分に冷ませなかったのか、とても熱そうにはふはふとさせていた。

 2口目を入れようとした時、丁度24時を回った。

「「あけましておめでとう。今年もよろしくお願いします。」」

 挨拶をした後、またそばを食べた。

 彼女は、

「インスタントのおそばって美味しいんだね!知らなかった!」といいながらはふはふとさせながらそばを頬張っている。

 こんなに嬉しそうに食べているのを見ると、僕は去年も同じものを食べていたはずなのにいつもよりも何倍も美味しく感じた。

 それと同時に、来年も、その先もずっと彼女と一緒に年越しそばを食べたいと思った。


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