第15話 あさごはん

「ねえ司クン?」


 朝食を作り終え、僕と大家さんで向かい合うようにしてご飯を食べていると大家さんが話を振ってきた。


「なんですか? 愛憎劇は無理です、昼ドラで我慢してください」


「違うわよぉ、舞ちゃんのことに関して聞きたいことがあるだけよ」


 僕は少しだけ大家さんが真面目な顔になったのを見落とさなかった。白鳥さんのことを大家として聞きたいことがあるのだろう。


 それならふざけるでもなく真面目に答えよう。


「あの子ね、多分だけど過去に司クンと会ったことがあると思うのよね。それも顔見知りとかじゃなく、結構仲が良かったみたいに感じるわ」


 思っていた三倍ほど真面目な話だったが、驚きを顔に出さずに考えこむ。


 確かに初めて会った日から、前にどこかで会ったことがあるように振る舞いを時々見ている。しかし僕にはさっぱり記憶がないため、彼女なりのジョークか何かだと思っていた。


 しかし今考えると妙に引っかかる。本当に僕と会ったことがあるのならば、僕に打ち明けていてもおかしくはないはずだ。


「大家さんは白鳥さんから何か聞いてないですか?」


「話されていたらとっくに話してるわよ。本当にそうだとしたら舞ちゃんが可哀想だもの」


 大家さんの言っていることはもっともだろう。過去に仲良くしていた先輩が、自分のことを一切覚えていないなんてつら過ぎる。


 白鳥さんが起きてきたら直接聞いてみるとしよう。話してくれるかは分からないが、過去に会っているかくらいはわかるだろう。


「後で本人に確認してみます。これで何か変わるとは思えないけれど、僕が忘れているとすれば思い出さなくちゃいけないので」


「……頑張りなさい」


 大家さんは何か考えるようにして、そっと背中を押してくれた。普段は飲んだくれだが、こういう時だけお姉さんみたいになられると対応に困る。


「それで司クン」


「はい?」


「お酒、解禁してくれないかしら」


 こういうところだろうな。いつも思うが、大家さんは印象を上げて落とすプロとしか思えない。


「もちろんダメです」


 僕がそう言うと、項垂れるようにして机に突っ伏して拗ね始めた。これが同年代か少し年上なら可愛いで済むのだが、流石に独身アラサーにやられるとキツイものがある。


 しょうがない、今回だけは少しだけ甘くしてあげよう。


「わかりましたしたよ。明日から飲んでいいですから」


「え、いいの!? 司クンしゅきしゅきー!」


「うわ」


 結構本気で引いてしまった。おそらく顔にも出ていただろう。


 その証拠に、普段は動じない大家さんが涙目になって後ずさりし始めていた。


「悪かったわね、可愛くなくて! ××××、×××ー!」


 大家さんはそう言いながら二階に走って行った。


 最後に至っては、放送コードにひっかっかるくらい酷かったぞ……


「しぇんぱいー?」


 そして大家さんと入れ違うように、眠そうな白鳥さんが降りてきた。


 

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