第四十九話


 母親はひどく苛立った様子でハンドルを握りつつカーナビに文句を言っているのだけれど矛先は時折僕にも向けられる。


「なんであんたこんなバカなことしたのよ」


「……ごめん」


 リク君と付き合ってることすら言い出せないほどにほころびた僕ら親子の関係ではましてやウチダ君にまつわる説明の難しい事情なんて到底話せるほどの信頼もなかったし、もし僕が勇気を出してたどたどしい言葉で救いを求めるようなことがあったとしても彼女は余計に不快に感じるばかりで救難信号が届くことはないだろう。

 マンションの前では泣きそうな顔をしたサエジマ一家が待っていて「心配したんだよ……帰ってきてないって言うのにシュントくん連絡つかないから」と胸元をぼすぼすと叩かれても母親に答えたのと変わらない声色で「ごめん」と言うことしかできなくて情けなさに歯噛みする。


 気付けば青く染まっていた朝の光に眩みながら形ばかりの謝罪を済ませた後、今日は休ませてくださいと学校の職員室に電話で断りを入れてから部屋に入って鍵をかけると寝具に倒れ込んで呆然としている内に眠ってしまっていたらしい。

 時計の針は正午を刺している。

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