第四十七話


 浜辺には枯れ木やら栄養ドリンクの瓶やら古風な釜の蓋やらが漂着していて中にはハングルが印刷されたインスタント食品のゴミまで流れ着いているんだけど、もう少し波打ち際に近づくととろとろとした砂が靴にこびりつくところがあるのでそっちのほうがまだ歩きやすいなと思いつつ。

 ウチダ君は地面の貝殻を拾ってみたりしているんだけれど鼻を掻こうと指を近づけた時「うわ、潮くさ」などと顔をしかめるものだから思わず笑ってしまう。


「ウチダ君はさ」


「はい」


「今から何かバイトとかして逃走資金稼ごうとか考えたりする?」


「無理でしょう。それこそよっぽどいかがわしい仕事じゃなきゃ」


「そっか。そうだね」


「はい」


「ねえ、ウチダ君」


「……何ですか」


「サデュザーグの音を聴いたら、意識不明になるんだよね」


「まあ、はい」


「いざとなったら、僕を眠らせてくれないかな」


「嫌です」


「ダメ?」


「ダメ」


「これでも?」


「抱き着いても、耳元で囁いても、ダメなものはダメです。僕だって罪悪感あるんですから」


「むう」


「それに、それじゃズルいじゃないですか」


「……」


「僕はきっとひどい目に遭います。でも、先輩もひどい目に遭ってくれるなら耐えられそうです」


「随分ダイタンになったね」


「そうですか」


「僕が苦しんでてもいいならさ、もう僕と付き合う理由はないんじゃないの?」


「意地悪言わないでください。先輩と一緒にいれたの楽しかったって言ったじゃないですか」


「……僕は、何を憎めばいいんだろうね」


「それは、僕には」


「今でもサデュザーグは許せないよ。でも、ウチダ君と結びつけるとどうにも怨む気持ちが薄れちゃう。愛着が湧いてしまうと弱いね。結局、悪いことをしたのは僕なんだよ。――君にも、リク君にも」

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