第四十四話


 指定された時刻の列車に揺られつづけていると聞きなれない、けれど彼にここで合流しようと言われたから忘れるわけにはいかない駅の名前がひどく音質の悪くなった車掌の声で告げられ、ドアが微かな音を立てつつ開いたので乗り込んでくる人はいないか必死に見つめていると横合いから話しかけられた。


「来てくれたんですね」


「当たり前じゃん」


「すみません、ちょっと車両を間違えて」と言いつつ横に座る姿を見ると抑えても涙が溢れ出てしまう。「ああもう、泣かないでください」と慌てながらもポケットティッシュで頬を拭ってくれる優しささえ今は嬉しい。


「大丈夫。もう泣き止んだ」


「よかった。――それにしても、こんな無茶な話、よく信じてくれましたね」


「そもそもサデュザーグの存在自体が無茶だよ。自然法則ガン無視じゃないか、君」


「僕もこうなりたくてなったわけじゃないんですが」


「角が空洞になってて、風が吹くと笛を吹く要領で音が鳴るのはまあいいじゃん。そういう動物もいるんだなって。でもさ、鼓膜が破れるとかならともかく、その音を聞いた人は魅了されて問答無用で意識不明になるだとか、そういうのは百歩譲ってもおかしい。なら人間に変身できたって不可能とは言い切れないじゃん。しかも、君がサデュザーグだっていうなら大抵のことの辻褄が合うし」


「なるほど」


「それに」


「はい?」


「君、演技まだ下手だよ。やっぱり」


「そんなぁ」

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