第四十三話


「ウチダ君、無事なの」


「はい。ご心配をおかけしてすみません」


 と殊勝に答える声は微かに震えていて細く、ああきっと無事じゃないんだろうなと電話越しにでも分かるほどだったせいでとても訊かずにはいられなかった。


「何があったの?」


「ごめんなさい。それはちょっと言えないです」


「今から会える?」


「厳しそうです」


「明日は?」


「ごめんなさい、何とも……」


 どうにか誤魔化そうとしているのが腹立たしくて、つい荒げてしまうのは声。


「ねえ、僕はそんなに信用ならないかな」


「そんなことは……」


「だって、こんなのおかしいって誰だって分かるじゃん。昨日大丈夫ってメール送ってきたくせに学校に来ない。その上欠席理由は行方不明。しかも、君の家はサデュザーグが出没した公園の近くだって。おかしいじゃないか」


「先輩、分かってください。僕は先輩に迷惑を掛けたくないだけなんです」


「じゃあまず勝手にいなくなるなよ!」


「それは」


「君がいなくなったら僕はどうすればいいの? 今度こそひとりぽっちだ。何にもなくなる。寂しい。いやだ。置いていかないでよ。君まで奪われたら僕は――」


「……僕なりに責任を取るつもりだったんです。あなたがひとりぼっちになってしまったことへの責任を」


「え」


「でも、もうダメそうです。多分、思いっきり監視カメラに映ってしまったので。そうでなくとも僕だけ無事だと言うのは不自然過ぎる」


「何を」


「ねえ先輩」


 ――サデュザーグは僕だと言ったら、信じますか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る