第三十九話


 ドーナツは人通りの少ない体育館の裏の段差のところに座ってゆっくり食べようということで手を引きつつ向かえば思った通りまばらに散らばる生徒たちが見える。


「先輩、一口ずつ交換しませんか」


「いいよ。はい」


 差し出せば俯きがちに食むのを見てああこうして顔さえ隠れていれば本当にリク君とそっくりなんだけどなあと思いつつつい愛おしくなって髪の間に指を滑り込ませて撫でてやればくすぐったそうにするのでこちらの頬も緩む。


「君のお陰だよ」


「え、何がですか?」


「いろいろ。君がいなきゃこうして公演もできなかったし」


「お役に立てたならなによりです」


 その言い方が真面目くさっていたのがおかしくって吹き出してしまったのが不服なのか「何なんですかもう。恥ずかしくなるじゃないですか、笑われると」と抗議してくるので今度はくしゃくしゃと頭を撫でる。


「痛い痛い、先輩、力強いです」


「あ、ごめん」


「首折られるかと思いました」


「そんな」


「まあ、でも、僕も演技がうまくなったもんですよ、本当」


「裏方だったのに?」


「練習見てるとですね、ミナミ先生がアドバイスしているのが聞こえてくるじゃないですか」


「ああ。それでか」


 ドーナツを全部食べ終わると「喉乾きません? 茶道部見に行きましょうよ」と提案されたので「引換券足りるの? 五百円分くらい要るはずだけど」と聞けば何かに気付いた様子で慌てるので「受付の方で追加の引換券売ってるから、買ってきなよ。僕はここで待ってるからさ」と言うと「すみません、ありがとうございます!」と叫んで走っていった。

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